前項に述べたごとく現当利益その物は、必ずしも、低級宗教ではないのである。しかしながら実際、低級宗教はあるにはある、しかも、その害毒たるや、恐るべきものであって、寧ろ、その筋の取締りをさえ乞いたいのである。
それは、彼の稲荷下(いなりお)ろし、飯綱使(いづなづか)い等のごとく、祈祷その他の方法によって、神下(かみさが)りをやる類である。これ等の方法をみるに、神下りと称して、盛んに手を振り、眼を釣り上げ、その異態なる姿は、正気の沙汰とは思われない程である。しかるにこの奇怪なる情態が、現わるる事を神下りと称して、非常に喜ぶのである。その時、何々尊とか、何神とか、高級の神の名を僣称(せんしょう)し、さも高級の神霊なるがごとく、殊更に威圧するごとき態度を装い、周囲の者に対し、命令的に、種々の妖言を述べるのである。
しかるに、その周囲に集れる愚夫愚婦は、真の神と信じて三拝九拝し、その御託宣に、随喜の涙をこぼすのであるが、不思議や、この神下りの予言は、当る事もあるが、外れる事も多いのであって、冷静なる頭脳をもって、常識的に批判すれば、直(ただち) にインチキを看破されるのであるが、迷わされてる人達は当った事だけを有難がり、外れた方は目を閉じて尤(とが)めないという、一種の変態心理になってしまっている。これ等神下りによって、何神など僣称するのは、そのことごとくが、狐狸の霊であるのだから、驚かざるを得ないのである。
それは、真の神懸りは、少しも平常と異なるなく、手を振ったり、異様な態度は、全然ないのが本当であって、神が懸りしや、否やほとんど、見分が付かない位である。また、言う言葉も、常識からみて、いささかも脱線的でなく、飽迄、穏かに、謙遜的態度であり奥床しさがある、随而(したがって)異様な形や普通人と異る態度、言葉を吐くのは、全部狐狸の霊が愚かなる人間を偽り、誑(たぶらか)すものと心得て、間違いないのである。
こういう霊懸りになるものは、婦人に多く、一度、これ等の霊に侵さるるや、己は高級の神格を得たごとく、自惚(うぬぼ) れて終い、婦人のごときは、家庭を打捨て、夫に反(そむ) き、我子をさえ顧みぬようになり、神様気取になって、人を眼下に見下し、実に手の付けられぬ事になるのである、ある程度で、止まればよいが、一歩進むにおいては、純然たる発狂状態に迄進むのである。
この類の信仰は、社会に相当多く、随而、世人を懦毒(だどく) する点も、なかなか軽視できないのである。これをこそ、低級宗教と言って間違いないのである。
また今一つは、狐狸、天狗等を拝む信仰であって、こういうのは、御利益一点張りの信仰で、己一人の利益さえ計ればいいので商売繁昌は元より相場で儲けたいとか、馬券を当てて貰いたいとか花柳界の女が、旦那や、情人に遇わせてくれとかを祈願する類であって、敢て社会を良くしようとか、人を救いたいとか、言う様な利他的の意志による信仰ではないのである。
これ等も、立派な低級宗教であると言えるのである。