自観放談(『無限』3号 昭和24年6月15日) 

インフレ・吉田内閣・毛沢東と蒋介石  米ソ問題・原子戦

大先生と一問一答

 由来宗教家とは権式張ってちょっと凡人には近づき難い存在だ。ところが自観大先生はいとも気軽く記者の勝手な質問を独特のユーモアをからませて軽妙に裁かれた。現下の経済問題、政界人断片、そして世界注視の中国は共産化するか。これの真新しい解決…米ソ問題と原子戦は起こるか。かと思うと俄然恋愛論が飛び出した。たまにはヨタも吹かないと肩が凝る。人間“岡田自観”の爽やかなひとくさり
(於五月二十日 熱海はサン・ルームにて)

いまのインフレは袋に空気を詰め込むと同じで、詰め過ぎるとパンクするというわけ

記者「ご多忙中恐縮です。さっそくですが、何か肩の凝らない雑談的なお話を一つ。ところで、だいぶわれわれの生活が窮屈になってきましたが、それについて、一体このインフレはどうなりましょうね。」

自観「早い話が、一度経済安定に達しないと解決しない。今日まで日本が安定しない、とうとう見かねてアメリカが九原則を提示した…この九原則とは“借金をやめて一生懸命働く”これだ。最近、竹馬経済という言が出たが政府はさかんに外資導入を唱え、国民は政府の援助を求めている。資金がないから生産資材や原料が買えない、だから大いに資金を放出してもらいたいとこう言う。政府は政府で外資を仰いで必要原料を外国から得たい、うまく行かないとすぐアメリカの援助を求める…こういう生ぬるい事をしている。これではなかなか繰り返しインフレは納まらないし、一度荒治療しないと駄目だ。『日本タイムス』に「一切の援助を断念し、資金放出を中止せよ」といった説が載っていたが、実際のところ日本は他を頼り過ぎて来た、ちょっと行き詰るとアメリカに泣きついてしまう。

 だいたいインフレとは、物価と発行高が平均を保っていれば起きないので、物価が騰貴し資金が膨脹する…ちょうど袋か何かに空気がいっぱい詰まり、それが膨らむだけ膨らめば、それ以上は膨らまない。もしそれ以上に空気を詰め込んだら、必ず破裂してしまう。だから、いまのインフレもちょうどこれと同じことわりで、いっぺん破裂させる必要がある。その方法は、目下さかんに金詰まりが言われているが、金詰まりをやらねば駄目だ。詰まるだけ詰まると打開が起こる。だからいまの苦しい時期を切り抜けたならば、インフレはなくなる。この理からして、外資導入はしない方がいい。一時の差し水なので、恒久的な作用はしない。結果はかえって悪くなる一方だな。まず時期が解決するよ。」

吉田内閣は長命。しょう政権は没落。中国は毛沢東の天下となる。
資本主義と共産主義はブランコの両端というわけ

記者「ときに、いまの吉田内閣は長命ですか、短命ですか?

自観「長命だね。やり方がいいからだ。どういう点がいいかというと(一)国民に迎合しない…一例を述べると、国民に迎合した片山は党員にも迎合して瓦解がかいしたし、芦田は国民を白眼視したので国民からソッポを向かれてしまった。(二)世論に従っていない。いやしくも内閣を統帥する者が、一々世論に動いていては政治はできない。独特の見解を国民に発表し、国民に納得させる。これが世論政治の要諦なので、この点現内閣は優れているよ。」

記者「いまの人物で、将来を嘱望されるのは誰でしょうか。」

自観「将来は犬養だろうな。あとは駄目だ。野坂など人物は秀れている。共産党では惜しいね。共産党でなかったら、野坂は相当伸びているはずだよ…ま、大体の所、吉田、犬養、野坂この三人だけだろうな。」   

記者「蒋介石はどうなりますか。」

自観「駄目だな。生きる道は一つしかない。下野して外遊する、アメリカ文化をじっくり見る事、そして帰って来て中共に屈服する他ないだろう。中国は毛沢東に任す他ないだろう。人物としても手腕からしても、いまでは蒋介石より毛沢東の方が遙かに上だ。ここで注目すべき点は、中共の共産化とソ連の共産化とは違うことだ…中共軍の今日の勢力は、決してソ連式共産主義そのものではないので、農民を背景として立ち、農民の正義感に訴えて発展したこと。従って、農民の大きな支持を得たためで、一方国民政府には農民の支持もなく正義感にも訴えなかった。むしろ反感さえ抱かせた。これは、中国の国情から察して、いまの蒋政権は当然没落する運命にあったわけだ。」

記者「ではそうすると、中国はいよいよ共産化しますか。」

自観「その点が、いま言うソ連の共産化と中共のそれと違うという見解からすれば、いま直ちに中国が共産化するという結論にはならない。その意味は、こういうわけだ。

 資本主義と共産主義とはブランコの両端だ。どっちへも行きそうで、どっちへも行かない。あっちへも行ったりこっちへ来たりしている。といって真ん中にも止まらない、それで文化は進歩するんだ。この真理が判った者が、一人前さ。どうだい、君に判るかい。」   

記者「こうでしょう、ブランコそのものは変らない、その振動して現われる状態、ブランコの両端…そこに左右両極端が発生する、だが、ブランコそのものであること。」

自観「 そうだよ。そんなところだろうな。その両極端で対立している、これはいつか解消するさ。つまり振動が静止し、まっすぐに停止した時は、両極端はない。この辺に、真理が潜んでいる。だから、中国が共産化するか、という論は、現実には共産化を呈するだろうが、といってそれが真理とはいい得ないね。」

米ソ問題。原子戦は起きない。それよりも怕いもの・悪人の一大恐怖時代が来るというわけ

記者「米ソ関係はどうですか。」

自観「つまり米ソ戦、第三次大戦の脅威にわれわれは晒されているわけだ。その脅威の対象が何かというと原子にあるんだね。原子の破壊力を人々は恐れている。今度もし大戦となれば、当然原子戦になる。その原子力による恐るべき作用を恐れている…ここに米ソ問題の独自な見方があるのさ。」

記者「結論として、戦うか戦わないか、この点を一つ。」

自観「ないだろうな。少なくも現実には、その可能性に乏しい。それは、決定的な原子力をアメリカも持っていない。いまの原子は爆発作用ではないので、大して効果はない。白一色にすれば破壊力は削減される程度だ。山奥にもぐれば、威力は発揮できない…世人に膾炙かいしゃされる程の威力を、まだいまの原子にはない。この程度では、アメリカとしても、そう無茶な闘いはしないよ。もし闘うとすれば、もう決定的とどめを刺さねば出来ない、中途半端では第一その力が足りない。まず、第三次大戦は、戦争というものとは違った形で、別な現象で現われるよ。」

記者「つまり一大転換期というその現象ですね。どんな現象ですか?」

自観「この辺から、宗教上の解釈が生むるわけだよ。つまり、彼のキリストの唱えた「最後の審判」がそれだ…人間に対する大転換がある。これは何を意味するか。いまいう原子戦の前に、それ以上の途方もない脅威が目前に迫っている、と言ったら、ちょっと奇言迷説になりそうだが、ま、気軽く説いてみると、こうだ…物質文明は恐らく原子の発見で頂点に達するだろう。つまり、現代文明はほぼこの辺で停止する、物質科学の極限に達したわけさ。   

 ところで、この物質文明の進歩は何を指すか。次の超文明…物質以外の分野が展開される、その前提としての今日の文化であり科学であった。ところが、この物質文明が進歩すると共に、霊界の一大飛躍が着々なされていたことなんで、霊界の進歩とは何か。これはちょっと簡単には納得しないだろう。また現代人の常識ではとても計れない。この辺が、大いに宗教的解釈が必要となる理由なので、天体…宇宙に潜んだ偉大な作用力とでも言っておくかな。この作用が、現代科学文明の進歩と併行して発達しつつある事実を、一応頭に入れるんだな。テレビジョンの出現、原子の出現またわれわれの手近にあるラジオ、無線電信…これらの現象はいかにも物理学から割り出されたように見受けられるが、事実は、これが霊界の進歩作用の現われなのさ。

 そのわけは、電波そのものは何かと考えれば判ってくる。空間にそのような現象が起こる…それは物理現象が起こる…それは物理現象から生じたものであるが、それを起こす本体は何か、これが霊界の作用さ。この作用が恐ろしく発展してきている。して見ると、必ずその本性を現わすに違いない。その現わす時、状態、作用といった点を、私は慎重に眺めているのだが、いよいよハッキリ判ったわけだ。」

記者「もしそれが人類にとって一大事象とすれば、大いに天下に発表して頂きたいですね。」

自観「これは迂闊うかつには言えない。たとえ発表しても、世間はまじめに受け取らないし、観音教の宣伝か妄言もうげんくらいで一笑にしてしまう。問題は、そういう一大現象が起こるとして、私をしていうならば“悪人に対する一大恐怖時代”と言った方が無難だな。また、それが真理なので、いわゆる一大浄化の渦中に突入するが、それはあくまでも“浄化”なので清いもの正しい者、善人に対する浄化ではない。暗いもの、濁ったもの不正なものが浄化されるので、このような一大現象なら、あえて大声出してめかずとも、人類滅亡などという途方もない事件でないんだから、さして慌てる必要はないね。ただしだ、悪に対する一大清算作用が起こるという事、これだ。その悪とは何か…戦争、謀略、欺瞞、これなど最大の悪さ。これに対する大きな裁きが当然ある。これが、つまり原子戦の前に起こる、人間を対象とした大転換が起こるというわけだ。」

霊科学の極致。偉大な宇宙の原則。“浄霊”で病気が治るというわけ  

記者「どうやら“霊科学”の説が飛び出そうですが一つこれのご見解を。」

自観「実際論でいこう。われわれがいまやっている“浄霊”なのだが、一体あれがどうして生まれるか…これから説明すると、宇宙の原則(火水土の三位一体の力)から割り出したもので、早い話が、人間には霊と体があることくらいは誰だって判っているだろう。由来病気なるものは、その霊の曇りが人体に反映して現われたものでその大元は霊そのものなのさ。だから、その霊が浄まれば病気は自然に治ってしまう。いや治すんじゃない、治るんだ。これが一番大切なので、たまたま私はこの偉大な宇宙の原則を発見し、その効力の素晴しいのに驚いているわけだ。

 霊科学の極致は何かといえば、神から与えられた人間の機能…能力とか体力、精神活動とか、これを高度に発揮させる作用だな、これが霊科学の目的なので、また生きた人間を対象とする限り、人間に関係するまたは人間によって構成される社会とか国家などの制度や秩序や道徳…それがいかに正であり美であるか、これら全般に亘って浸透する力…これが霊科学の極致なので決して有形化されたものの進歩(これがいまの物質科学の在り方だが)の姿ではない。無形のもの、眼に見えない神秘現象がハッキリさせる…これが霊科学の目的だ。その裏付けは、あくまでも人類の福祉増進をさせるものだよ。だから、極論すると霊科学というのはあたらない、霊には科学的なものはないよ。強いて言えば“霊力”…霊そのものの力の発現作用だな。これは宗教的に見ないと解釈がむずかしい。といって“霊”そのものは決して“宗教”ではない。その証拠に、観音教を信じる信じないにかかわらず“浄霊”を施行すれば、誰でも…赤ん坊でもときに悪人でも効果には変わらない。もし宗教上から言えば悪人や犯罪者にそんなご利益はないだろうさ。ここに本教団の特色があるわけさ。」 

二十一世紀の恋愛でも、やはり悩まされるというわけ

記者「いずれにしても「霊科学」が高度に発達すれば、人類には相当都合がいいでしょうな…現世地上天国の出現、ちょっと口にするだけでもウットリしますね。言葉の音がいい。」

自観「私の提唱する現世地上天国化は空想じゃない、真実だから必ず実現する。で、その場合、極論すると宗教はなくなるだろうな。あるとしてもかなり違ったものだ。」

記者「すべてが神聖で清浄で真善美の極致ですか。」

自観「神聖の解釈は難しいよ。軽々しく言えない。ただ、地上天国といっても一般の通念に浮かぶ“天国”じゃないんで、あくまでも人間界の現象なのだから、決して幻想的なそれではない。

記者「どうでしょう、その時代の恋愛など。」

自観「恋愛?またバカに飛躍したな。」(笑声)

記者「どうも最近それが問題なんですがね。例えばですよ。霊科学が高度に発達したら、明日の事柄が判ったり、若い者などの恋愛なども、相手の心が判るから余計な苦労(笑声)がせずに済むし、時にどうも会いたくない奴、会っては困る相手…借金取り(笑声)などまずそうですが、これが判ったりこりゃずいぶん便利になりますな。」(笑声)

自観「そういうのは、いかん。(笑声)それは一種の悪の現象だ。少なくもその時代は暗い面はないのだから、逃避的行為はないね。  

 ところで、話しが出たから恋愛について…これは霊科学とは話が違うが、恋愛そのものには、相当霊的作用の場合が多い。よく昔から美人薄命というが、これは相手の想念がかかってくる。しかも美人の場合(笑声)一段とその想いは強い。多くの人の想いを受けることになる。その想念の曇りが、いつか集積してとうとう死ぬ…片想いってやつは全く始末が悪い。先方が勝手に思い込んで、仮想するんだからいい迷惑だよ。(笑声)…ところが、この場合でも、その美人が、真に霊体の清らかで強い者だったら、そんな想念などハネつけてしまう。この辺に“霊科学”の微妙な作用がある。だからまず恋愛の解決点は、すべて霊的にある。これが判らないから、みんな悩んだり片思いしたり、ま、ご苦労な話さ。」(笑声)

記者「そうしますと、次の時代のさしずめ二十一世紀の恋愛などは、どういう趣向でしょうね。(笑声)

自観「いや、これは君笑いごとじゃない、大いに真剣に考えていいね。(笑声)元来、恋愛なんてものは本人にとってこれ以上の深刻はないんだからな。(笑声)…恋愛の醍醐味は、どうやら苦しむ心境にあるらしいね。(笑声)君なんか、苦しんだ方だろう、想念がよろしくないらしいからな。」(笑声)

記者「これはどうも。たしかに恋愛の味はそんなところですな。そうしますと、来るべき世界の恋愛でもやはり悩まされますか。」(笑声)

自観「同じ悩むにしても、だいぶ違うよ。例えば、霊視術(本来霊視術など悪の作用だ…術という語句がいけない)ま、霊視術といった方が魅力がある、これが発達しているから、先の先まで判ってしまう。現在はこれこれだが先はこうなる、と判れば、そう熱も上らんだろう。(笑声)しかし、君がさかんにいう二十一世紀の恋愛なんて、論ずるのは価値ないよ。由来、恋愛は神聖なものとしてある。時には第三者の批判など不結果を来す。まして二十一世紀ともなれば、すべて清らかな心と身体に恵まれた時代なのだから、全く健全で明朗なものだ。そうでなくてはいけない。現代でも、このような若い男女の交渉は見ていてもうるわしいし、育成すべきだな。」

現世地上天国の出現は近い将来。その前に一大浄化作用がある

記者「ではこの辺で結論に入ります。大先生の提唱される“現世地上天国化”はいつ頃実現しますか。」

自観「よくそういう質問を受けるが、近い将来だ。さっきも言ったように、その前に一大作用が起こるということ…丁度人体の浄化作用が起こって初めて健康体になる、これと同じで、宇宙自体に大きな飛躍をなすのだから相当の転換作用があると覚悟しなければならない。この場合、いかにも予言めいて聞えるが、この説明は前に言ってあるから、本教団としては、あくまでも“救いの業”を行うという、これを今後も徹底したいと考えている。」

記者「どうも有難うございました。」

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