酒飲みの霊 (天国の福音 昭和二十二年二月五日)

飲酒癖は天狗その他の憑霊に因る事は曩に説いたが、それとは別の原因もある。これは酒乱即ち酔うと人格が一変するので、次のごとき例があった。

三十歳位の男子、平常はすこぶる温和(おとな)しいが、酒を呑むと全然一変し常軌を逸し、最も困る事は近所の酒屋を飲み回るので、無一物になると借りては飲む。その結果、後へ廻っては父が支払いをするのである。この治療を頼まれたが、私は霊的と惟(おも)い霊査法を行った処、果して憑霊であった。それはその男の祖父にあたる埼玉県の百姓で、六十歳位で没したというーーーその霊である事が分った。しかし時々憑るのである。ある日憑ったらしいので霊査してみると果してそうであった。霊の主は不思議相に四辺を見回しーーー
「ここは何処だんべ」という。私は、
「ここは私の家で東京の大森である」と言った。彼「フフンそうか、俺は莨(タバコ)が喫(の)みてえ」と言うから巻煙草を与えると、
「煙管(キセル)で喫む煙草が欲しい」というので、刻(きざ)みを与えた。彼はうまそうに二、三服喫み終るや起上って腰を撫でながら、縁側の方へ行き胡座(あぐら)を掻いて、荐(しき)りに庭を見ながら、不審そうである。私は
「ここは娑婆だが判るか」というと、彼は、「どうも判らねえ」と言う。
私「あなたは地獄を知っているか」
彼「知っているとも、苦しい所だ。だが俺はこの頃大分楽な所へでて来たよ。だが酒も煙草も無えので困っちまう」
私「なぜか」
彼「金が無えから買えねえ」というので、私は“彼世でも金銭は中々手に入らないらしい”と思った。彼はまた「酒が飲みてえ」と繰返し頼むのである。「酒を茶碗に一杯飲ませれば必ず帰える」と言うので、早速酒を与えると、舌鼓を打ち「今一杯」というので、その通りにしてやった処離脱した。またこの男に、前年の秋死んだという近所の酒屋の親爺の霊が時々憑るが、四十歳位、力自慢で憑依すると必ず手を拡げ、足を踏張り「サーどいつでも掛って来い」と言って、威張るのである。ある時、私の家の書生が打つかった所、たちまち投げ飛ばされ、腕の骨を折った事がある。この霊が憑いた時は三人位の男でやっと制(おさ)えられるという位力がある。

また若い娘の霊が憑った事がある。それはこの男(名前は竹ちゃん)の近所の煙草屋の娘で、二十幾歳で二月ばかり前に死んだのだそうだ。霊曰く「私は竹ちゃんが好きであった」と、また、「喉が涸(かわ)いて仕方がないから水を戴きたい」と言うので、その通りにしてやると、うまそうに三杯呑んで、厚く礼を述べ帰った。その挙動は若い娘の通りで、いとも慎ましやかである。その際「水は貴女の家でも上げるだろう」と訊くと、「そうですが、飲めないのです」という。これは察するに、上げる人の想念が間違っていたのではないかと想う。

タイトルとURLをコピーしました