死人に鞭つ (自観叢書九 昭和二十四年十二月三十日)

 之も矢張り私の妻が胃痙攣を起した時の事、胃部の激痛の為ノタ打廻るのである。早速私は胃部に向って治療を加えた処、痛みは緩和されたが全く去らない。然るに痛みの個所は一寸位の円形で、漸次上方へ向って進行しつつ咽喉部辺に来たと思ふや、妻は、「モウ駄目だ。」と叫んだ。そこで私は、「之は憑霊だな。」と想ったので、「お前は誰だ?」と訊くと、憑霊は言はんとしたが口が切れない。仍(ソコ)で私は、「三月程以前に脳病で死んだ○○の霊ではないか。」と気がついたから訊いた処、「そうだ」といふので、それから種々の手段で聞質(キキタダ)した結果、憑霊の目的は、私が其霊の生前の悪い点を人に語った事が数回に及んだので、憑霊は、「是非それをやめて呉れ。」と言ふのである。私は謝罪し今後を誓約したので、霊は喜んで感謝し去った。去るや否や忽ち平常通りとなったのである。そうして昔から死人に鞭打つなと言ふ事があるが、全くその通りと思ったのである。

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