標題の如く、結核は医学が作るものであると言ったら、何人も驚倒して了うであろう。事程それ程医学を信じ切っているのが現在の社会である。そうして序文にもある通り、私は二十余年以前結核医学の盲点を発表したが、其当時は言論の自由がない為、思い切ってかく事が出来ず、成可加減してかいたので、不徹底は免れなかったし、其頃は今日程結核問題も喧しくなかったから、それでもよかったが、今日はどうであろう。衆知の如く事実は国家の最大問題となっている。今年から行う事になったという結核に対する施設及び、其他の国家的負担は千億に近いというのであるから、民間費用を合算したなら、実に驚くべき巨額に上るであろう。そこで深く考えてみるべきは、何故この様な事態に立到ったかという事である。勿論この問題に対しては余程以前から政府も専門家も大童になって、あらん限りの対策を練り努力しつゝあるに拘わらず、今以て見るべき成果がなく、近来相当減ったとしているが、之はＢＣＧやストマイ等の新薬が出来た為、一時的発病の勢いを挫いたまでで、根本的でない事は医学でも認めている。何よりも若し今迄の対策が当を得ていたとすれば、結核問題は疾に解決されていなければならない筈であるのに、事実は前記の通りである。としたら其処に何等か割切れない大きな誤りがあるに違いあるまい。処が医学は其処に気付かないのである。しかしながら喜ぶべし、愈々私によって其根本原理が判明し、全治の方法をも完成した以上、人類にとって之程大きな救いはないであろう。無論この原理に従えばこの難問題も容易に解決され得るからである。
処でここで厄介な事は、以上の如き大発見を知らせるとしても、体験者以外直ちに信じ得る人は、殆んどないであろう事である。只驚きの眼を瞠るか、或いは見逃して了うかも知れないが、この著にかいてある悉くは絶対真理である以上、読むに従って納得され、飜然眼を醒ます人も相当あるであろう。
偖て愈々本論に取り掛るが、そもそも人間は誰でもオギャーと生れるや、例外なく先天性毒素を保有していると共に、生長するに従い、大多数の人は後天性毒素をも追加する。之は別項に詳しく記く事として、右の両毒素こそ結核の真の原因である。今一つ重要な事がある。それは人体に於ける自然良能力の活動である。それは一秒の休みもなく、不断に浄化作用が行われている事である。浄化作用とは体内にある凡有る毒素の排除作用であって、この過程をかいてみるが、元来右の両毒素とは、血液中に含まれているというよりも、充満していると言った方がいい位の所謂濁血である。処がこの濁血に対して浄化作用が発生し、それによって毒素分は分離し、毒血又は膿となって体内各局所に集溜する。其場合主に神経を使う箇所に限られているので、人間が神経を使う所といえば、上半身特に首から上で、頭脳をはじめ、目、耳、鼻、口等であるから、其処を目掛けて集溜せんとし、一旦其手前に固結する。如何なる人でも頸の周囲を探ってみれば、淋巴腺、延髄部、扁桃腺等の部に必ずそれがあり、微熱もある。するとこの固結が或程度に達するや、自然浄化作用が発生する。この浄化作用こそ所謂感冒であって、感冒に罹るや発熱が先駆となるが、之は右の固結を出易くせんが為の熱で、この熱によって溶解し、液体化したものが喀痰であり、鼻汁であり、盗汗、濃い尿、下痢等であるから、感冒とは全く体内にあってはならない汚物の排除作用である。その結果濁血は浄血となり、健康は増すのであるから、感冒とは実に貴重な生理作用であって、神が人間の健康保持の為、与えられた一大恩恵である事は余りにも明かである。それが何時の頃どう間違えたものか、逆に解釈したのが、今日迄の医学の考え方であった。それが為「風邪は万病の基なり」などと言い恐るべきものとされ、感冒に罹らないよう注意すると共に、罹っても色々な手段を以て、毒素排除を停めようとする。即ち折角溶けかかった毒素を元通りに固めようとする。この手段こそ実は結核の原因となるのである。
之を一層詳しくかいてみると、まず感冒に罹るや、其症状としては前記の如く、咳嗽はじめ種々の苦痛が発るが、其中での特に重要なものが彼の喀痰である。之が口から排泄されようとし、一旦肺臓内に入り咳というポンプ作用で吸い上げ、咽喉を通って出るのであるから、其儘放っておけば順調に排毒作用が行われ、血は浄まり、治るべきものを医学は逆解して、飛んでもない間違いをする。それは痰を出さないよう凡ゆる手段を用いて、肺臓内に固めて了うのである。そうすれば病気症状は消えるから、それで治ったものと思うが、何ぞ知らん一時的固めたもので、本当に治ったのではないから、日が経てば再び風邪を引く。勿論残りの毒結に浄化が発るからである。其際医診を受けると、肺の中に残っている痰の固まりが、レントゲン写真に映るので、ここに結核の初期と診断すると共に、前の時肺の外部即ち肺膜や肋骨付近にも固まりを残すので、それが溶けはじめ外へ出ようとし肺に侵入する。之を医診は肺浸潤と言い、肺の上部の場合肺門淋巴腺、又は肺尖加答児というのである。之によってみるも、最初感冒の際毒素を出さないよう固めて、結核の種を蒔いておいた訳である。それだけならまだいゝとして、之からが大変である。
右の如く結核の初期、又は其他の診断をされても、放っておけば二度目は少々日は掛るが必ず治るべきものを、医療は又しても固めようとする。絶対安静、服薬、注射、湿布、氷冷等々がそれである。何しろ身体自身は、毒素を排泄しようとするのを、医療は飽迄固めて出さないようにする。つまり治ろうとするのを、治さないようにする訳であるから、何と驚くべき間違いではなかろうか。
ここで何故浄化作用なるものが発るかというと、前記の如く人間は体内に毒素があるだけは弱体で充分な活動が出来ないから、感冒は言わば自然の摂理である。という訳で人間活力が旺盛であればある程発り易く、青少年に多いのも其理によるのである。従って浄化を停止し弱らせるに限る。弱っただけは病気症状は減るからで、之を医学は治るものと誤解したのである。医学の療法が徹頭徹尾衰弱方法であるのは、この事を知ってみればよく判る筈である。見よ絶対安静を最も奨めるが、之程弱らすものはない。今仮に健康者を何カ月もの間絶対安静にしてみるがいい。運動不足、食欲減退、無聊等で元気は喪失し、必ず痩せ衰えて了う。況してや結核患者に於てをやである。而も薬剤は勿論、種々の衰弱療法をも行うと共に、精神的には前途に希望を失い、絶えず死の恐怖に脅えており、近親者も寄りつかず、毎日々々天井を見詰めているばかりか、仕事も禁じられているので、経済的不安も愈々募り、それやこれやで漸次悪化し、どうにもならなくなる。というのが一般結核患者の辿る道程であろう。
以上によってみる時、医学の誤謬の中心は何といっても病気症状についての誤った解釈である。それは医学は苦痛其ものを病気の本体としているから、苦痛を無くす事が病を治す事と思い、只苦痛を減らす事のみに専念し発達したものであって、之がそもそも誤謬の根本である。処が本当は苦痛其ものは病の治る作用でプラスであり、喜ぶべきものである。というように其考え方が反対であって、即ち医学の方は浅く、吾々の方は深い訳である。併し苦痛といっても必ず峠があって、其時だけを我慢して越して了えば、後は漸次快方に向うのが原則であるから、苦痛も左程長いものではない。之について医師はよく手遅れなどというが之も反対で、手遅れになっただけは治るので、寧ろ放っておけば猶更よく治るのである。それを逆解して早く手当をするから治らなくなる。つまり人体は治ろうとするのを、医療は治さない手段であるから、この摩擦が快くなったり、悪くなったりして拗らして了い、遂に慢性となるのである。この理が分れば発病の場合放っておくに限る。そうすれば順調に浄化が行われるから、甚だしい苦痛もなく容易に治るのである。故に医学の進歩とは病気を治す進歩ではなく、治さない進歩であり、単なる苦痛緩和の為の固め方法の進歩でしかないのである。何よりも医師は治すとは言わない。固めるというにみても、肯けるであろう。
ここで早期診断についてもかかねばならないが、之も実は結核増加に拍車を掛ける方法なのである。それについて曩に感冒の浄化停止をかいたが、其様な訳で現代人は残らずと言いたい程肺の内外に毒素の固まりがあるから、大抵な人は常に緩慢な浄化が起っている。微熱、懈さ、軽い咳、食欲不振等がそれで之等も放っておけば長くは掛るが必ず治るのに医学は早期診断を行い、レントゲン撮影によって溶けかかった肺臓内の痰の固まりが雲翳となって映ると共に、前記のような軽い症状もあるから、ここに結核初期の烙印を捺すのである。そこで先ず絶対安静を始め色々な浄化停止を行うが、取り分け薬剤を主とする為、之が毒素の原料となり、この毒の浄化も加わって漸次悪化しつつ本物の結核患者になって了うのである。
そうして早期診断の方法として、ツベルクリン注射を行うが、其結果陽性でも陰性でも警戒の要ありとする。この理は陽性とは浄化力が旺盛な為であり、陰性とは反対に微弱の為であるが、医師はどちらもＢ・Ｃ・Ｇの接種によって発病を止めようとする。発病さえしなければそれで済むと思うからで、其際患者に対って、一、二年は余り過激な運動をせず、成丈静かにせよと戒めるが、之は浄化を発させない為である。といっても人間はいつかは必ず浄化が起るように出来ているから、普通の生活をし、仕事をするようになると浄化発生する。之が発病又は再発である。という訳で近頃の流行薬の効果はそれであって、只発病の時日を延ばすだけである。この証拠として最近本教団の信者で、米国駐在の宣伝員からの報告によると、同国に於ても近来急激に結核患者激増し、昨年度の死亡率は、他の病気の総計よりも、上廻っているという事であるから、現在結核は同国死亡率の第一位を占めた事になり、私の説を裏書している。
右について左の新聞記事はよくそれを物語っているにみて、或程度医学でも分っているのである。
昭和27年2月5日付読売新聞に掲載の記事
「化学療法の手段」 東京慈恵医大教授 医博 片 山 良 亮
ストレプトマイシン其他の化学療法剤の発見は、従来の治療に大きな変革を来さんとしているが、マイシンでも結核の牙城を揺がす事は出来ない。マイシン治療を行っている内に、結核菌が次第に抵抗性を得て、効果を減滅するからである。其抵抗性の獲得は六～九週以上の投薬の持続によって発生するが、其間に結核菌を絶滅する事は出来ない。だからマイシンを使えば病状は急に著しく回復するが、結核菌は消失しないから、其中止によって再発の危険がある。そこで現在の研究は其事実を、如何に補うかという事になる。－－（後略）