結核に就(つい)て、割合関心を持たれていないものに精神面がある。処が事実之程重要なものはない。誰も知る如く一度結核の宣告を受けるや、如何なる者でも精神的に一大衝撃を受け、前途の希望を失い、世の中が真暗になって了(しま)う。言わば執行日を定めない死刑の宣告を受けたようなものである、処が可笑(おか)しな事には、それを防ごうとする為か、近来結核は養生次第、手当次第で必ず治るといふ説を、当局も医師も旺(さか)んに宣伝しているが、之をまともに受取るものは殆(ほと)んどあるまい。何故なれば実際療養所などに入れられた者で、本当に治って退院する者は幾人もあるまいからである。然し偶(たま)には全治退院する者もないではないが、大部分は退院後再発して再び病院の御厄介になるか、自宅療法かで結局死んで了うのである。だから何程治ると宣伝しても信じないのは当然であろう。
其様な訳で、結核と聞いただけで、忽(たちま)ち失望落胆、食欲は不振となり、元気は喪失する。何れは死ぬという予感がコビリついて離れないからで実に哀れなものである。私も十七、八才の頃当時有名な入沢博士から結核と断定された事があるので、其心境はよく判る。そういう次第で結核と宣告するのもよくないが、そうかと言って現在の結核療法では、安静や其他の特殊療法の関係上知らさない訳にもゆかないという、ジレンマに陥るのである。そうして近来ツベルクリン注射や、レントゲン写真などによって、健康診断を行う事を万全の策としているが、之は果して可(よ)いか悪いかは疑問である。私はやらない方がいいと思う。何故なれば現在何等の自覚症状がなく、健康と信じていた者が、一度潜伏結核があると聞かされるや、青天の霹靂(へきれき)の如き精神的ショックを受けると共に、それからの安静も手伝い、メキメキ衰弱し、数ケ月後には吃驚(びっくり)する程憔悴して了う。以前剣道四段という筋骨隆々たる猛者（もさ）が、健康診断の結果潜伏結核があると言い渡され、而(しか) も安静と来たので、フウフウ言って臥床(がしょう)している状は、馬鹿々々しくて見ていられない程だ。何しろ少しも自覚症状がないので、凝乎(じっ)と寝ている辛さは察して呉れというのである。処が半年位経た頃は、頬はゲッソリ落ち、顔色蒼白、一見結核面となって了った。それから翌年死んだという事を聞いたが、之などは実に問題であろう。勿論健康診断など受けなかったら、まだまだピンピンしていたに違いないと思って、私は心が暗くなったのである。
右のような例は、今日随分多いであろう。処が之に就て面白いのは、医学の統計によれば、百人中九十人位は一度結核に罹って治った痕跡があるというのである。此事も解剖によって判ったという話で、医家は知っている筈である。してみれば寧(むし)ろ健康診断など行わない方が、結核患者はどの位減るか判らないとさえ私は常に思っている事である。併(しか)し医家は曰うであろう。結核は伝染しない病気なら兎に角、伝染病だから結核菌を有っている以上、甚だ危険だから、それを防ぐ為に早く発見しなければならないし、又早期発見が治療上効果があるからと言うであろうが、後者に就ては詳しく説いたから略すが、前者の伝染に就てかいてみるが、之が又大変な誤りで、結核菌は絶対感染しない事を保證する。私が之を唱えると当局はよく目を光らせるが、之は結核の根本がまだ判っていないからである。以前斯ういう事があった。戦時中私は海軍省から頼まれて、飛行隊に結核患者が多いから、解決して貰いたいと申込んで来たので、先ず部下を霞ケ浦の航空隊へ差遣(さしつかわ)した。そこで結核は感染しないと言った処、之を聞いた軍医はカンカンに怒って、そんなものを軍へ入れたら今に軍全体に結核が蔓延すると言って、忽(たちま)ち御払い箱になって了った事がある。
私が斯ういふ説を唱えるのは、絶対的確信があるからである。何よりも私の信者数十万中に結核感染者など、何年経っても一人も出ないという事実と、今一つは実験の為、以前私の家庭には結核患者の一人や二人は、いつも必ず宿泊させていた。其頃私の子供男女合せて五、六歳から二十歳位迄六人居り、十数年続けてみたが、一人も感染する処か、今以(もっ)て六人共稀に見る健康体である。勿論其間結核患者と起居を共にし、消毒其他の方法も全然行わず、普通人と同様に扱ったのである。今一つの例を挙げてみるが、数年前之は四十歳位の未亡人、夫の死後結核の為、親戚知人も感染を恐れて寄せつけないので、進退谷(きわま)っているのを知った私は、可哀想と思い引取って、今も私の家で働かせているが、勿論一人の感染者がないばかりか、此頃は殆んど普通人同様の健康体になってよく働いている。尤(もっと)も仮令(たとえ)感染しても簡単に治るから、私の家庭にいる者は、何等結核などに関心を持たないのである。
以上の如くであるから、吾々の方では結核は伝染しないものと安心しているので、此点だけでも一般人に比べて、如何に幸福であるかが判るであろう。処が世の中では此感染を恐れる為、到る処悲劇を生み、常に戦々兢々(せんせんきょうきょう)としている。夫婦、親子、兄弟でも近寄って話も出来ず、食器も寝具も別扱いで、除(の)け者同様である。然(しか)し医学を信ずるとしたら、そうするより外致し方ないであらう。以前斯ういう面白い事があった。某農村の事であるが或農家に十六、七の娘がいた。彼女は結核と宣告されたので、一軒の離れ家を作って貰い、一人ボッチで住んでいたが、其離家は往来に面している為、其前を通る村人等は、口を覆うて駈足(かけあし)で通るという話を、私は本人から直接聞いて大笑いした事がある。成程空気伝染と曰われれば、それも無理はないが、実に悲喜劇である。だから私の部下や信者は数十万あるから其中の一万でも二万でも纏(まと)めて、一度に試験してみたら面白いと思うのである。
右に就て尚詳しく説明してみるが、先ず家庭内に結核患者がある場合、他の者はいつ感染するか判らないという心配が、コビリついて離れない。だから偶々(たまたま)風邪など引くと、さては愈々(いよいよ)自分にもうつったんじゃないかと思うし、又常に風邪を引かないようにと用心に用心をするが、運悪く一寸(ちょっと)風邪でも引くと、慌てて医者に走り、薬に頼るという訳で、精神的恐怖感に加えて薬毒や浄化停止によって、結核を作る事になるという訳で、今以(もっ)て伝染説が持続されているのである。今一つは霊的原因であるが、之は親子兄弟等の近親者や、親しい友人、男女関係者などある場合、右の死者の霊が憑依(ひょうい)して其通りの症状を呈する事がある。之が恰度(ちょうど)感染したようにみえるのである。憑霊問題に就ては後に詳説するから、それを充分読めばよく判る筈である。又近来小学児童に集団結核が出たといって屡々(しばしば)報ぜられるが、此場合教師を検診すると、一人や二人の開放性結核患者が必ずいる。すると此患者が感染の元であるといって大騒ぎをするが、之なども実をいえば、現在何処の学校の教師でも、厳密に検診すれば、二人や三人の結核患者のない学校は先ずあるまい。それらをよく考え合してみる時、感染説というものが、如何に確実性の乏しい事を知るであろう。