御教え集18号 昭和二十八年一月三日④ ( 箱根美術館)

    箱根の美術館は今別館をこしらえ始めました。そうして今年の五月から浮世絵展覧会をやろうと思ってます。それで今度出来る別館というのは、陳列をする室は五間に八間の四十坪のものですから、かなり並べられます。それと本館の方の、前に下で屏風を並べてあった部屋がありますが、それだけの予定です。多分それでも並べきれないと思いますから、途中で陳列替えをするという事になるだろうと思ってます。それで並べる物は去年の夏頃から不思議に浮世絵のいい物が集まってくるのです。それまではそんなに考えなかったのですが、これは神様が浮世絵展覧会をやれという事と分りましたから、そういう計画を立てたのです。それで去年の京都の浮世絵展覧会の品物よりもずっと上の物です。これは今までに例がないでしょう。又不思議にすばらしい物がはいってくるのです。これは道具屋がみんな不思議に思ってます。つい最近、五、六日前の話ですが、浮世絵の肉筆の非常にいい物ですが、それは明治から大正にかけての有名な人で、その人が浮世絵が好きでコレクションをつくったのです、それはみんな立派な物ばかりです。それが八十幅あります。実に驚くべき話です。そのうちの四幅か五幅を見ましたが非常にいい物です。それで是非欲しいと言うと、先方では箱根美術館になら売ってもいいというのです。それに今金に困らない人で、売っても金は何時でもいい、そうでなければ出品して陳列してもいい、という様に実に条件がいいのです。それは八十幅はとても並べきれません。それにみんなわりに大きな掛物ばかりです。実にいい物で、よくもそういういい物が集まったと思ってますが、それが八十幅あります。これなどはとても人間業ではありません。とに角浮世絵の方では岩佐又兵衛(イワサマタベエ)が第一人者ですが、又兵衛の巻物では「山中常盤」という十二巻の巻物で、常盤御前と牛若丸の伝記です。伝記と言ったところで、事件の一番のクライマックスを画いてあるのですが、実によく画いてあります。やはり腕から言っても又兵衛が一番と言ってもいいくらいです。箱根美術館にあった浮世絵「湯女」は、私の感では又兵衛です。又兵衛以外にあれだけの物を画ける人はありません。それに又兵衛の癖がよく出てます。この「山中常盤」の巻物は昭和五年に三越で展覧会をやった事がありますが、その時に評判になって、見物人が列をつくって見たそうです。そういう様で非常に有名な物です。それと同じ様な物で「堀江物語」というのがありますが、それも十二巻で、私の手にはいりました。世間にもう一つの「堀江物語」がありますが、それは八巻だけは又兵衛が画いて、あと四巻は弟子が画いた物です。それで八巻だけは御物になってます。ところが私のは十二巻揃ってますから大したものです。それでこの間の京都の展覧会に又兵衛の「小栗判官」と「職人づくし」の巻物がありましたが、これはずっと落ちます。絵も小さいし絵の出来も絢爛たるものがありません。あんまり真面目すぎるのです。ですから私の方がずっといいのです。そういう又兵衛の絶品が二つも私の所にはいったという事は実に不思議だと、この間も美術協会の会長でこの方では有名な人で、秋山という人が見に来て驚いてました。そういう様でなかなかいい物が集まっているのです。それはべつにそういった経路で集めたのでなく、自然にフラフラとはいってくるのです。そしていい物で欲しいという物になると、わりに値が安いのです。どうしても神様がいい塩梅(アンバイ)にそういった物を寄せる様にしているとしか思えないのです。(773下)それからもう一つは版画ですが、春信(ハルノブ)の版画で十二枚揃っているのがはいりました。この間文学博士の藤懸さんという人が見に来ましたが、その人は浮世絵の版画では日本一なのです。学者ですから実によく調べてます。むしろあんまりよく知っているので驚いたくらいです。私は版画というのは、今まで趣味がなかったから、肉筆は集めましたが版画は手を付けなかったのですが、どうしても買えというので、買う事にしました。私は気がなかったので、神様の方では買わせ様と思われたのです。それで博物館の浮世絵の係の人で近藤市太郎という人が“博物館でも買いたかったが金がどうしても足りないので、あなたの方で是非買ってくれ”と言うが、それでもグズグズしていると、文化財保護委員会の総務部長をしていた富士川という人も“買った方がいい”と言うのです。文化財保護委員会の会長の高橋誠一郎という人も、前から非常に欲しがっていたが金が出来なかったから買わなかったが、救世教の美術館で買ってよかった、という様な事を言われていたそうです。そういう様で非常にいい物です。それでそういう版画の方も、藤懸さんの話では、アメリカだけにある版画は日本の十倍くらいあるそうです。ボストン博物館には約六万枚の版画があるのです。一美術館で六万枚あるのです。それで日本の何処に何が幾つあるという事は分ってますが、日本中で七千枚あるのです。ですから、日本がうっかりしているうちにみんな向うにさらわれてしまったのです。(774上)あれは私が岡倉天心先生に会ったのが三十くらいの時ですから、今から四十年前に岡倉先生がボストン博物館の顧問になっていて始終アメリカに行ってましたが、その頃日本から版画を持って行っていたのです。それで日本で気がついた時には、もうあらかた無くなっていたのです。それからドイツ、フランスにも相当行ってますから、版画だけは日本にあるよりも外国に行っているのが十倍以上あります。(774下)そこで藤懸博士はボストンの六万枚というのを全部見たそうですが、今度私が手に入れた春信だけの物はないそうです。それでもしこの版画を展覧会に出すとしたら、これだけを見に来る外人が随分あるだろうという話です。また或る人ですが、この人は片手間に道具屋をやってますが、駐留軍の工芸員に雇われて一週に一回講義に行く人ですが……アメリカ人の中に顔が広く、この人が春信の版画を私の所に持って来るのに骨を折った人です……あれが並んだら外人の偉いのを片端から連れて行くと言ってますが、そういういい物がなんでもなく手にはいったのです。そんな様で版画でも肉筆でもそれはすばらしい物が並ぶわけです。そうして外の美術品も、今年はずっと変えて、現代美術はあんまり喜ばれない様ですから、今度はそれをやめて外国美術をと思ってます。外国美術と言っても、ヨーロッパでなくバルカンあたりの美術品です。これも自然に手にはいって来たので、神様がやれという事と思って、これをやります。それはギリシャ、ペルシャ、インド、支那の奥地、という様な美術品です。ペルシャの美術品にはなかなか面白い物があります。これは又別の味のある美術品です。それからあとは支那の周時代の古い銅器も相当集まってます。そういう物を並べるわけですから、今年は去年とは全然違った展覧会になります。それを楽しみにしてもらいたいと思います。

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