御教え *日本美術の紹介機関/古美術(御垂示録11号 昭和27年7月1日②) 

≪お伺い≫今日、西洋人が十人程来る事になっておりましたが、断って来たそうです。やはり日曜でなければ駄目だそうです。今度日曜日にお招びになられましては。

≪御垂示≫そうですね。あっちの人は几帳面ですからね。

≪お伺い≫それに朝鮮問題が紛糾しておりますので。

≪御垂示≫そうですね。その内に機会を見て。

≪お伺い≫フランスとイタリアの大使館は来る事になってましたが、非常に好きだそうです。

≪御垂示≫いずれ来ますよ。それに評判を聞くでしょうしね。

≪お伺い≫昨日、今日の鑑識家が帰って評判になります。皆大したものではないと思って来た様です。長与さんとか谷川さんという人は褒めるものではありませんが。

≪御垂示≫そうそう、悪口の方です。かえってそういう人達の方が張り合いがありますよ。

≪お伺い≫また、褒めるとなると馬鹿に褒めます。

≪御垂示≫それが本当かも知れないです。我々だって世の中に褒めるものはあんまりないですから。現代の絵なんていうのは、私は褒めたくも褒める所がないです。

≪お伺い≫とにかく、あの人達が日本一という折紙をつけてくれます。今度は世界一に。

≪御垂示≫世界一ですね。熱海に出来れば無条件で世界一です。それから富士川さんが話していたが、アメリカでも、そう大きいのは無いそうです。私はアメリカだから大きいかと思ったら大抵この位だそうです。それにアメリカでもイギリスでも特殊なものです。支那の物と言えば陶器、銅器。日本の物は版画か光琳の贋物にせもの。蒔絵の怪しげなもの。日本陶器は殆どないです。イギリスでも、仁清は少しありますが、その仁清も怪しいものです。日本の物としては版画だけでしょう。版画は日本以上です。ボストン博物館は大したものです。

≪お伺い≫益田さんはまだ持っているので。

≪御垂示≫博物館に出しました。だから去年なんかも博物館で展覧会がありましたが、どうも良い物は無いです。外国で蒐め始めたというのは、肉筆は見る機会がなかったからです。大名がしまって見せなかったからです。版画だけは市中に出てましたし、安いから買い良いですしね。

≪お伺い≫家庭に保存して出さなかったという事は、見せたくないという事もありますが、出して置くと悪くなる。それに外国に持って行って見せるという事はいたみますから。

≪御垂示≫それならまた色んな方法もあるし、短期間やるとかなんとかすれば良い。それは、ほんの口実で、実は見せたくないんです。

≪お伺い≫博物館では掛物一つ掛けるにも扱いが悪いので、見せたくないという封建的な事になりますが。

≪御垂示≫やっぱりそれがあります。絵ならそうですが、蒔絵とか陶器とかはなんでもない。百年置いてもなんでもない。だからそういう物を出せば良いが、出さない。そういう懸念があるのは絵だけでしょう。あれは褪色たいしょくしたり、しわが出来たりがあります。私の所でも、掛物だけは、どういう風にすれば一番良いか研究するつもりです。

≪お伺い≫博物館でやるのはハラハラするそうで。

≪御垂示≫心得を持たなかったり趣味がなかったりするし、お役でやりますから――それはあります。それに博物館は予算が無かったのでね。

≪お伺い≫物を見せて自慢したいというのと、人に見せないで自分だけというのは、ほんれい霊と副霊のふくれい

≪御垂示≫それ程やかましいものではないが、それは独占慾です。つまり独占の一番強いのは男女関係でしょう。だから支那人は自分の夫人を人に見せない様にしていた。それからトルコ人が夫人の顔を見せない様にしていた。これは独占慾のごく極端なものでしょう。

≪お伺い≫二階の髭の生えた像は非常に褒めてましたが。

≪御垂示≫インドのガンダーラといって二千年位前の物です。あの時分にああいう物が出来たんです。あれ程の名作はないです。あれと同じものが大英博物館にありますが、あれよりもっと年取ってます。ここにあるのが、ずっと美男です。それを知っている人は褒めます。恐らく世界に無いでしょう。実に良く出来てます。インドのガンダーラという所で出来たものです。もう一つは石の首があったでしょう。あれは良い物です。支那の大同の石仏というのがありますが、あの時代に出来た最高傑作です。何年位になりますか、今調べてますが、相当古いものです。良く出来てます。

≪お伺い≫どこから掘出して来るのか、良い物がありますね、と言っておりました。

≪御垂示≫とにかく日本という国は不思議な国です。

≪お伺い≫博物館では一日平均五百人で、一人十円、団体が五円で、今百八十人使っているので、人件費だけでも大変だそうです。

≪御垂示≫そうでしょう。どうしても政府で予算を増やさなければ駄目です。美術品の買入費というのは、つい去年あたり迄は二千万円でした。今は増額したでしょうが、知れたものです。今文化財保護委員会の方の所属になってますから――委員会の方は予算も一億以上あります。その代り色んな事があるんです。国宝保存がありますから。

≪お伺い≫古城とか。

≪御垂示≫そうです。古い寺だとか――一億円位じゃしょうがないです。

≪お伺い≫会長は誰でしょうか。

≪御垂示≫会長は高橋誠一郎じゃないですか。この間来たのが総務部長です。だからこういう美術館というのは文化財保護委員会でこしらえなければならないものです。だから、これが出来たという事は国家が非常に喜ぶんです。

≪お伺い≫昨日来た有志連中も、こういったものがあっても良いと考えていたらしいので。

≪御垂示≫そうでしょうね。あって良いどころの騒ぎではなく、なくてはならないんです。何しろ日本美術の紹介機関というのがないんです。それと位置が変な所にあっては嫌です。外客は来ないです。箱根はその点は良いです。

≪お伺い≫明主様に鑑識はないと思っていたので、見てすっかり驚いて、美術学校を出たのか、どういう造詣があるかというので、私は霊感だと言って置きました

≪御垂示≫それは良いです。

≪お伺い≫絵なら絵を掛けて、嫌な気がすると買わずに返す。すると後で、それは贋物だったという事が分かる。と、説明するより仕方がありませんので。

≪御垂示≫それが本当だからね。全く贋物はだけないです。

≪お伺い≫何十年も前から研究していた様に思うんです。大抵は良くても三分の二は贋物だそうで。

≪御垂示≫そうです。

≪お伺い≫白鶴でも、初めは随分取り替え取り替えで、いかさまがあったそうですから。

≪御垂示≫そうです。三十代から九十迄でしょう。本物が分かって来たのは二十年位前です。それ迄に一千万円月謝を払ったそうです。

≪お伺い≫塩原さんも大分売ってますが半分は贋物だったそうです。

≪御垂示≫贋物だったらしょうがないんです。十品見て一品買えば良い方です。気の毒になりますよ。五、六点位、小僧に持たせたり自分が持ったりして、ここに汗かいて上がって来て、一品も買わないでしょう。その代わり、これはという物は殆ど言い値で買ってやるんです。それで結局買い損ないがないんです。高くても時が経つと安いんです。その代わり良い物――これはというのがあると一番先に私の所に持って来る。値切らないからね。値切るところは一番後です。小林一三は三番目という綽名あだなになっている。私の所に一番に来て、二番目が五島慶太、三番目が小林一三です。

≪お伺い≫五島慶太にはだいぶ良い物がありますので。

≪御垂示≫だいぶという事はないが――揃っているのは殆どお経です。あと光悦こうえつ物があるが、他の物は形なしです。去年の大師会の時――大師会というのは方々に席がありますが、東京の席で五島の物を出しましたが、一番の呼物は徽宗きそう皇帝の鴨の絵です。私の所に持って来て、私がはねつけたもので、贋物なんです。私はその場では言いませんが、あとであれは駄目だ、本物でないと言ったら、聞いた人が「へえ」と言って居ました。昨日か一昨日か来ましたが『明主様がいつかおっしゃいましたが、この頃怪しいという話になってます』と言っていた。

≪お伺い≫ここの徽宗皇帝は浅野さんから出たので。

≪御垂示≫そうです。あれは本物です。

≪お伺い≫雪舟のは、みんな珍しいと言ってました。

≪御垂示≫珍しいです。雪舟の物でもっと立派な物がありますが、本当に雪舟の良さというのは、あれです。特色が表われている。あの位の雪舟はないです。それから啓書記けいしょきの松が大きく画いてある、あれも良い物です。啓書記周文しゅうぶんを本当に見る人も少ないです。未だ啓書記の素晴しい物がありますが、出すだけの余地がないですからね。

≪お伺い≫みんな湿気が来ないかと心配して居りますが。

≪御垂示≫湿気は大丈夫です。それは研究してます。箱根で普通の戸棚に入れて、去年一年でなんともないんです。熱海の方は二、三かびが生えてます。ですから熱海の空気は悪い。一番困るのは倉染みです。大名の倉に何十年も入っているのは黄色くなりますが、あれは取れない。倉染みでないのは殆ど取れます。蒔絵の方は乾燥がこわいんです。蒔絵の乾燥は人は余り気がつかないが恐いです。浮いちゃうんです。そこでアメリカ人が蒔絵にあんまり目をつけないのはそういう訳です。アメリカは非常に空気が乾燥しているんです。だから、アメリカに持って行けばみんな割れちゃうんです。良い物ならいいですが――先に持って行ったのは、みんな割れちゃうんです。

≪お伺い≫コップに水を入れてあるのは乾燥を防ぐ為で。

≪御垂示≫あれはそうです。蒔絵だけです。陶器類も、日本の支那陶器は良いというのは、昔から伝わってますからね。ところが英国、米国にあるのは土中物と言って土に埋めたものです。同じ様でも全然違います。何百年、何千年前に支那の戦争の時に埋めたんです。外国は殆どそれが多いです。ですから、英・米共に支那陶器は新しい――康煕こうき乾隆けんりゅうの良い物がありますが、宋時代の物は殆どないです。日本のは、そういう物を藤原時代に輸入して珍重してますが、それが良いんです。ですから青磁の良い物は日本です。

≪お伺い≫坊さんが向こうに行く様になってから来ましたのでしょうか。

≪御垂示≫それもありますが、とにかく足利義満と義政が、ああいう物を好んで珍重して、支那に買いにやったりしたんです。だからその判のある物はみんな高いです。東山御物ひがしやまぎょもつと言って、天山と判を捺してあります。それを捺してあるのは、みんな良い物です。それを徳川家康か家光が真似して柳営御物りゅうえいごもつとしましたが、柳営御物も可成り良いですが、時代が若いので、中には感心しないのがあります。東山御物なら間違ないです。だからその功績は大したものです。宋元物を盛んに輸入したので、それを真似て画いたのが狩野派です。雪舟は支那まで行きました。支那に行って勉強して偉くなったんです。その時分に支那に行って勉強したりしたのは、雪舟に啓書記、周文しゅうぶん――皆、坊さんです。宋元物というのはみんな坊さんです。牧谿もっけいも坊さんです。坊さんが大したものです。

≪お伺い≫禅から来ているのでしょうか。

≪御垂示≫禅です。禅というのは大したものです。茶の湯でも禅から出ているんです。

≪お伺い≫武蔵の絵も禅からで。

≪御垂示≫そうです。武蔵は大体沢庵を師匠にして禅を学んで、光悦の影響を受けたんです。私はお茶は習わないが、家内がやっているから、お茶の席に行くが、お茶をあんな事をしてやるのは嫌いです。然し茶席というのは閑寂で良いものです。

≪お伺い≫お茶席にかけてあるのは。

≪御垂示≫「是仏」と書いてあるが、あれは気に入っているんです。無準ぶじゅんの弟子なんです。あの書は日本に一つか二つしかないです。上手うまいでしょう。真似が出来ないです。名前は分かっているんですが、覚えていないです。無準の直弟子じきでしで、なんでも三代目じゃないかと思う。あの字は良い字です。布でもその時代に表装したんですから、日本に無い様な良い布です。

≪お伺い≫美術館のは後から取換えたのもありますので。

≪御垂示≫それはあります。

≪お伺い≫当時から続いたほうが。

≪御垂示≫奥床しいんです。絹のは「帰雲」ですが、日本一でしょう。私は帰雲が好きで、やっとあれが手に入ったんです。その隣の大燈のは良い物です。

≪お伺い≫画家は趣味がない様でした。

≪御垂示≫墨蹟は画家には分からないです。あれは茶人でなければ――。お茶では墨蹟です。利休はお茶の時には墨蹟です。たまに掛けるのは牧谿の墨絵です。他に掛けるのはないです。

≪お伺い≫牧谿の茶掛もお持ちでございますか。

≪御垂示≫「川蝉」というのがあるでしょう――烏みたいな、あれがそうです。墨蹟というのは茶室では良いです。絵ではどうしても力が弱いです。

タイトルとURLをコピーしました