宗教と芸術 (信仰雑話 昭和二十四年一月二十五日)

 今日迄、宗教と芸術とはあまり縁がないように多くの人に思われて来たが、私は之は大いに間違ってゐると思う。人間の情操を高め、生活を豊かにし、人生を楽しく意義あらしむるものは、実に芸術の使命であろう。春の花、秋の紅葉、海山の風景を眺むる時、文芸美術の素養ある人にして其眼を通す時、言い知れぬ楽しさの湧くものである。吾等が理想とする地上天国は、「芸術の世界」といっても過言ではない程のもので、よく謂う真善美の世界とはそれであって、芸術こそ美の現われである。然るに今日迄案外閑却されてゐたのは如何なる訳であろうか。昔の高僧は絵を描き、彫刻を得意とし、堂宇まで設計するというように、美の方面に対して驚くべき天才を発揮してゐる。其中(ソノウチ)で最も傑出した宗教芸術家としては彼の聖徳太子であろう。太子の傑作として今も遺ってゐる奈良の法隆寺の建築や、その中に在る絵画彫刻等を覧る時、今から千弐百年以前に建造されたものとは、到底想像も出来ない素晴しさは何人も同感であろう。 

 然るに一方粗衣粗食、禁欲的生活をしながら教法を弘通した聖者名僧も多く輩出したので、芸術と宗教は甚だ縁遠いもののやうに思われる事になったものであろう。之等は真善はあっても美が無い訳である。

 此意味に於て、私は大いに芸術を鼓吹しようと思ってゐる。

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