それから、この二十八日――私は奈良、京都方面に行くんですが、この目的は何だと言うと、仏教美術ですね。仏教美術といったところで、仏像を見に行くんです。これは、良いものは奈良に一番多いので、そういった様な――そういう良いものがある寺を数カ所大体連絡して了解させて、そうしてそれを順繰りに見る事になっているんですがね。それはどういう訳かというと、私が去年あたりから仏教美術を研究してみると、驚いたんですよ。それは何だというと――素晴しい彫刻ですね。しかも、とにかく奈良時代ですね。千二、三百年前に出来た木彫なんか大変な傑作がある。それは方々のお寺にあるんです。大体仏像が多いですが、仏像以外に昔の力士ですね。力士の男性の裸像――これなんかには非常な傑作がある。本当に遠慮なく言うと、ロダン以上のものは沢山あるんです。ロダンは男性美の力強さですね。それがロダンの特色としているんですが、ところがロダンのは写生ですが、奈良朝時代に出来たものは、写生でなくて頭で作ったものです。空想的なもので、写生のものよりもっと力強い、実に驚くべきものです。又それ以外に仏様ですね。阿彌陀如来とか薬師如来とか、穏かな崇高な様子の溢れた面貌といい、感じといい、実に大したものですね。そこで、日本にそれ程の秀れた彫刻が沢山あるんです。数え切れない位あるんです。しかし何と言っても奈良、京都です。ここに集中されている。まず、古いところは推古、飛鳥ですね。天平、白鳳、弘仁、藤原、鎌倉といった具合で、それぞれ特色があります。鎌倉時代の精巧な作品はまた別な特色があって、それは実に大したものです。だから私は、どうしても世界的に知らせる必要があると思う。日本人がいかに文化的優秀性があるかという事ですね。それにはどうしても京都に一大美術館を造らなければならない。と言うのは、仏像の大きいものは、一つか二つはどうか知らないが、沢山運ぶ事は無理です。困難なんです。だから地元に陳列しなければならないですね、だから私は、京都に美術館を造るべき敷地ですね。それが丁度、候補地があるんです。それを今度調べるつもりなんです。それと、もう一つは、やっぱり古いお寺は非常に財政難に陥っているんです。その為に去年も、京都の大徳寺に行きましたが、気の毒な様です。雨漏りを修繕する事が出来ず、壁は落ち縁側も落ちそうでね、で、それを修繕する事が出来ない。政府でも国宝保存に対して、非常に気を揉んでますが、中々またそれ程の財政援助が難しいので余程それに対して人民の方で、そういう事に力を尽さなければならないと思う。また人民の内で、終戦前みたいに金持が沢山ある時はそういう事も出来ない事はないが、今日の様な状態では中々難しい。それで私は、あの辺の寺から、優秀なものを一カ所に集めます。今迄はそういった研究や何かはお寺を一軒一軒廻ったものです。おまけに、外人や何かは日限がないのに大変ですから、一堂に集めて一遍に見せるという機関を作らなければならない。そういう機関を作って、相当の入場料を取って、その金を出品したお寺に分配して、お寺の保存費、修繕費――そういうものに当てる様にする。そうすると一挙両得ですからね。しかも日本の彫刻の秀れた――それを世界中の人に知らせる。そういう事ですね。これは是非やらなければならないですからね。大体そういう意味で、今度行く事になったのです。で、神様がやられているんですが、そういった様な丁度良い様な敷地でも、ちゃんと取って置いてあるんです。そこに段々、やっぱり地上天国を造ろうと思っている。もう一つは、京都という所は、全然発展性がないんですよ。だから、一番の証拠には、京都の人口を調べて見ると増えないんです。何年前から同じなんです。だから京都は、別の――そういった美術都市ですね。それが京都としての在り方なんですね。ですから、それには京都は将来もっと観光外客が、ついでに見るという所でなく、日本の京都を見に行こうという位の誘引力ですね――そういうものを大いに京都という都市に発揮すべき必要があると思う。差し当っては美術館は是非こしらえ様と思うし、それから後には、京都に一大地上天国を造ろうと思っている。それには、京都という所は実に雰囲気が一番適当しているですね。これは日本の土地、京都位の所はない。京都は日本に於けるフランスなんです。日本を世界とするとね。これは霊的の事になりますがね。これはいずれ話すとして――日本を世界とすると、京都はフランスになる。フランスは世界の観光客を集める。と同じ様にして、京都もそんな――今でもそういう点はありますが、まだまだ貧弱なんです。唯、古臭い、歴史的のにそういったもので客を呼ぶだけです。成る程、桂の離宮とか、修学院とか、色んなそういった古いのがありますが、それ丈では極く特殊な人だけしか、それが理解出来ないんです。そこで、現代人誰も彼も是非行ってみたいと言う意欲を起すには、とにかく新しい天国的なものを造るという事でなくちゃならないと思う。そういう意味で、段々京都もそういうものをやるつもりですがね。今度の旅行の意味を一寸話したんです。それから、これは一寸注意ですけれどもね。
御論文「大いに注意すべき事」【註 栄光一五六号】
およびお陰話朗読。