御教え *芸術(御教え集5号 昭和26年12月18日②)

この間ピカソの事について書きましたがね。やっぱり、びっくりしたと見えて――私が読んだのではなく、聞いたんですが、最近の中京の『中部日本』――あの新聞に出ていたが、メシヤ教の美術館の事を書いてあって――ピカソを思いきって、こき下したとか、何とか――そう言う事を書いてあったそうですよ。びっくりしたと思いますよ。けれども、本当だからしょうがないね。では、どうしてあの奇怪な絵が流行はやるかと言うんですね。流行らした本元はピカソですがね。それを考えて見ると理屈はあるんです。あれはどう言うのかと言うと、根本的の理由がある。と言うのは、東洋――特に日本ですね。芸術上から言って、東洋の方は静ですね。西洋は動なんです。仮に音楽としても、西洋音楽を聞くと、静かに落ち着いていられないでしょう。どうしても踊り出すですね。つまり、動の芸術なんですからね。日本のはそうならない。静かに、ゆったりと落ち着いて来る。だから。踊りでも日本のは舞踊ですね。舞踊でも、舞いですね。西洋のは踊りですからね。踊りも、段々西洋の方は動が進んで来て、極端になって来たですね。今アメリカなんかで、ジヤズですが、最近のジヤズは実に早いですね。テンポがね。手足の動かし方が、まるで目にも止まらない位です。西洋でも十七、八世紀位の時は、長い箱みたいなものを着けて、着物を長くして、あんまりくっつき合わないで、手を両方――舞う様な具合で、実に静かです。最近に至っては、極端に迄なったんです。徹頭徹尾西洋は動です。東洋は静です。処で、絵が今迄――東洋はもちろんですが、西洋の方でも静的だったんですが、段々動的になって来た。ピカソなんかも動なんです。動くのを画くんです。例えて見れば都会の色んな――交通機関とか、人間の動き方も、見た瞬間を画くんです。それから、人間が走る――あるいは汽車や自動車がヒヨッと走る、その見た感覚を画くんです。それから、物体の方は動くんでなくて、自分が動くんです。すると、顔が二つに見えたりする。ヒョッと見て、それを画くと横顔と前顔と――それから、半分前向きで、半分横向きと言うのがあります。つまり動を画くんです。動の速度ですね。速度を画く。そう思って見れば、やや解るんですがね。そうでなかったら、てんで解りっこない。それから、何か物体を画くのも、幾何学的に線ばかり画きますが、あれも、ヒョッと見ますね――そうすると、目茶苦茶に線ばかりになる。それから、色んな色でも、着物を着た奇麗な娘さんでも、ヒョッと見ると、色ばかりが神経に来るから、良い加減な色を画く。ですから、理屈はあるんです。ただ、その理屈を――見る人間ですね。お前達もそう言う風に思え。つまり苦痛ですね。あれは、苦痛を押し売りする様なものです。御自分はそれで良いが、押しつけられた者は災難です。高い入場料払ってね。ピカソのそう言う物を、自分だけ――独りよがりして押しつけるんですからね。それで、押しつけられているのを、褒める人間が沢山あるんですからね。ですから、私のあの評を見るとびっくりして――ひとたまりもない事を言うんですがね。そこで見ても、現代人の美術観ですね。美術観と言うものは、非常に未だ幼稚なんですよ。そこで、この間もピカソの論に書いてあるんですがね。そんな芸術と言うものは、動くとか動かないとか、色んな事でなくて、見て楽しめるものですよ。見て愉快なものですね。

 こう言う押し売り主義は他にもあるんですよ。ラジオでもそうです。大分押し売りがありますがね。何を押し売りするかと言うと、西洋音楽ですよ。西洋音楽の押し売りをやってますがね。日本人が、西洋音楽の高い深い、高級な音楽を理解できると言うのは、極く少ないです。西洋音楽も良いですよ。昔からある名曲なんかは良いですよね。しかし、ベートーベン、シューベルトあたりでも、十の種目で、私等が興味を覚えるのは、二つか三つですよ。居眠りが出るのが多いですよ。それを、大衆が楽しめるのにすれば良いが、放送局でも、官僚的でね。西洋音楽でも、ファンに対して教育する様な態度です。こっちは、何も音楽家になる訳でもないしね。日曜の朝なんか、堀内敬三さんですかね、御丁寧にやってますが、さっぱり面白くないです。こっちは、そんな、生まれた――経歴とか――何も興味はないんです。楽しめば良いんですからね。あれが、やっぱり今言う押し売りですね。そこで、民間放送が出ると、周章あわてて番組を変えてますがね。民間放送は興味本位ですからね。押し売りの一番親玉がピカソの絵なんでね。今度の私の美術館ですね。それは、解った人でも解らない人でも、それに魅力を感ずる。実に良い、楽しめる、と言うのを主にしてますからね。ですから、できてから見ると分かりますがね。私は、昨日箱根に行って来ましたが、大分できて来て、予想よりか良くできてます。部屋の光線の取り具合から――完全とは言えませんが、小さいですからね。それに金もかけないしね。しかし、先ず小規模のものとしては成功と思っている。だから、でき上って世の中の人が見たら、相当唖然とするだろうと思います。来年の夏迄にはできるつもりです。

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