*国宝/茶碗/日本の彫刻/芸術と種痘(御垂示録8号 昭和27年3月1日②)

国宝の仏像

《お伺い》博物館に御座います仏像、或いは国宝の仏像は、約何%が本当の芸術品で御座いましょうか。

《御垂示》全部芸術品です。仏教芸術です。その内で、やっぱり良い悪いがありますからね。優劣がね。

《お伺い》真善美を具有している――条件を具備していると言う事に当嵌まるので御座いましょうか。

《御垂示》全部当嵌まるんです。

不二ふじの茶碗

《お伺い》「光琳展」に不二ふじの茶碗の隣に雨雲あまぐもの茶碗が御座いましたが、之は芸術品で御座いましょうか。

《御垂示》立派な芸術品です。それに就て話しますけれども、雨雲は三井のでしたかね。あれは良い茶碗ですが、一寸陰気な感じでね。それで、私はそう良いとは思わないんですがね。それよりか、あの隣に紙屋と言う茶碗がありましたがね。之は良いですよ。ずっと赤茶色でね。それから、不二は断然良いです。不二は光悦こうえつの茶碗では一番ですがね。有名なものでね。あれは、酒井忠正と言う伯爵が持っているんです。殊によると借りられるかも知れないから、そうしたら、美術館に出すかも知れませんが、あれは大したものです。あの時にも、博物館に貸さないと言ったんです――酒井さんがね。それを、皇太后陛下が居らっしゃるんで、是非貸して貰いたいと言うんで、じゃ二日貸そうと言うので、二日の約束で貸したんです。それで、あの日に行った者でなければ見てないんです。それをもう一日と延ばしたんです。その位大事にしているんです。あれは実に良いんです。本当に傑作ですね。あれは、日本の茶碗では第一等かも知れないな。井戸なんて言うのは朝鮮ですね。天目てんもくと言うのは支那ですね。日本製としては、光悦の不二が一番でしょうね。あと、楽なんて――長次郎ですね。一番良いのは東陽坊と言うんですが、之だって不二に較べれば段違いです。

《お伺い》何焼きで御座いましょうか。

《御垂示》つまり光悦の焼いた楽なんです。楽と言えば、本家は長次郎ですがね。それを光悦独特の楽式の焼方ですね。実に良い茶碗ですね。

 それから仏の話だけれども、博物館にある仏は、今国宝と書いてあるのは新国宝なんです。今度改正になって、旧国宝と重要美術とから特に傑出したものが、今の国宝です。之は幾らもありません。二つか三つかです。良いですよ。藤原時代の物ですね。仏像の良いのは藤原時代ですよ。

《お伺い》不二の茶碗を見まして、富士の絵が、子供の絵本の隠し絵の様に現われるのかと思いましたが、見えませんので、離れて見ますと、富士さんを表徴していると言う感じが致しました。

《御垂示》ああ言う物はみんなそうです。雨雲と言っても、鬱陶うっとうしい感じがしますからね。

日本の木彫は世界一

《お伺い》不動尊を見ましたが嫌悪の情がわき、私は以前信仰しておりましたので、これでは申し訳ないと思いましたが、嫌悪の情を起すと言うのは美術品ではないと思いますが、如何なもので御座いましょうか。

《御垂示》あなたは、未だここ(頭)が、美術を見る迄に至ってないんです。不動尊も美術品ですよ。

《お伺い》嫌な感じが致しますのは、こちらの。

《御垂示》そうです。大きさが小さい。もっと大きくならなければ。今に不動尊が良く見える様になります。中々良いですよ。良い彫刻のはね。私は大好きです。今度の美術館にも不動尊が出ます。毘沙門も良いです。それから今度、三越に明後日行って見ますが、阿修羅と言うのをね。阿修羅と言うのは悪魔ですからね。けれども、之を芸術的に見ると何ともないんです。つまり芸術と言うのは、善悪を超越するんだからね。つまり総て芸術的に見ていくと良い。だから、芸術となると信仰とか、色々な事は忘れちゃって、美ですね。美しさを掘り出す訳です。

それから、さっきの国宝に就てだけれども、今新国宝と旧国宝になっている訳です。と言うのは国宝の内で、感心しないのが相当あるんです。今度非常に厳選して、旧国宝中からり抜いて新国宝とするんです。全部から、つまり先の選び方は杜撰ずさんだったんですね。厳選して国宝を取るんです。前の重要美術品は、文化重要美術品と――そう言った様な名称になったからね。

《お伺い》阿修羅は新国宝に入るので御座いましょうか。

《御垂示》さあ、どうですかね。無論新国宝になりますよ。ああ言うのは、手続きが遅れてますからね。

 だけども、日本の仏像の彫刻と言うのは、大したものですよ。木彫ですね。どうも、日本のは良いですがね。世界一ですがね。支那の六朝仏が良いとしているが、日本の推古の仏像の方が上ですね。天平時代の仏像の――木彫の仏像は、ロダンなんて足元にも及ばない。大変なものですよ。みんな知らないからね。大騒ぎをやっているが、実に奈良朝の木彫と言うのは大変なものです。将来熱海に美術館が出来たら、仏教美術展をやろうと思っている。それは京都、奈良のお寺の彫刻の立派な物を残らず網羅して借りて、大展覧会をやろうと思う。世界中に広告して、半年位ね。世界的に紹介する訳です。それは不可能じゃないと思うんです。本尊様は貸す訳にはいかないが、本尊さん以外のはね。処が、ああ言うのは、本尊さんは良い物はない。本尊さん以外に良い物がある。そう言った事を、私はやろうと思っているがね。

《お伺い》阿修羅は一億円と言う事を。

《御垂示》新聞でしょう。おまけに『毎日新聞』が書いたんですからね。毎日が主催しているんです。だから値打ちがある様に書いたんです。仏でも、ああ言う大きい物は、買う人がないですよ。大抵、大きい仏像と言うのは、座席を取るからね。こっちは狭いからね。ああ言う物は、やっぱりゴテゴテ飾っちゃ値打ちがないですからね。やっぱり、間隔を置いてね。

《お伺い》高村光雲たかむらこううんは、行く行くは国宝になると言う事で。

《御垂示》もっと上手うまくなくてはね。鎌倉時代の仏だって、高村光雲の方が下ですからね。良い物はとても足下にも及ばない。私なんかも、ははあと感心しないですからね。ボリュームがないです。

《お伺い》玄々げんげんは如何で御座いましょうか。

《御垂示》之は、兎に角鎌倉期以後の名人ですね。

《お伺い》作が非常に少ないので。

《御垂示》そうですね。

《お伺い》三越で力を入れておりますが――。

《御垂示》処が玄々もまずい所があるんです。

芸術家が元気がない一番の原因は種痘

《お伺い》昔は良い物が出来、今は出来ないと言う事は、何が原因で御座いましょうか。

《御垂示》経済上ですね、今だって、上手うまいのがあるんですよ。あるけれども、グズグズしていると台所がガタツきますからね。だから、思い切って、ゆっくり出来ないですね。そこにもっていって、元気がなくなっている。今の人は元気がないですね。元気がない一番の原因は種痘ですよ。途中で良い加減な所で、妥協しちゃうんですね。何処迄もと言う根気がないですね。

《お伺い》結局薬毒で。

《御垂示》薬毒ですよ。種痘ですよ。だから凡ゆる芸術品は――音楽でもそうですね。私はよく長唄を聞きますが、新曲で之はと言うのがないですよ。やっぱり私が聞きたいのは、『弁慶』とか『勧進帳』とかですよ。西洋の音楽でも、シューベルト、ベートーベン、シュトラウスと言っても、百年以上前ですからね。近代の音楽で、之と言う名作はないでしょう。

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