科学の力 (信仰雑話 昭和二十四年一月二十五日)

  現代人は如何なる問題と雖も、科学によって解決せられざるものはないように言い、科学は万能薬のように思われてゐるに対し私は質問したいのである。それは道徳は、芸術は、恋愛は、科学によって解決出来るだらうかという事である。今仮に科学によって道徳上の問題が解決出来得るとすれば、最も科学教育を受けた処の最高学府を出た人士は、道徳的に優れてゐなければならないに拘わらず、讀職、破廉恥等の犯罪者も少くない事実を見れば、科学は道徳的には微力である事を物語ってゐる。

次に芸術であるが、これは又意外である。科学の進歩せる今日の美術家の作品を覧る時、数百年以前の同様美術家の作品と比べて、科学を知らないその時代の作品の方が数段優れてゐる事実を発見し、私は毎(ツネ)に驚歎するのである。

茲に最も面白いと思う事は男女間の恋愛であるが、之は科学的に如何に解釈するかである。以上の如き三大問題は人生に対し、最も解決を要すべき重大問題であろう。成程、科学は唯物的には人類に対し偉大なる貢献をなしつつあり、増々其発展を要望してやまないが、前述の如く科学によって解決不可能の問題も相当あり、之こそ宗教が分担すべきものではなかろうか。是に於て私は惟(オモ)ふ。此両者の一致的進歩こそ真の意味に於ける人類文化の向上であろう事を。

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