[日々雑感]ウイルス不活化物質研究者の独り言

こんにちは、今回はここ何年間か、世界中が振り回されたウイルスについて、ウイルス不活化物質研究者の窪田さんのお話をご好意で掲載させていただきます。(法人会広報誌に寄稿)

㈱UFS 窪田宜昭さんの随筆

ウイルス、細菌(バクテリア)、真菌(カビ)といった微生物は、時に病原体として忌み嫌われ、人体や環境から排除すべき対象とされる。そこで様々な抗ウイルス薬、殺菌剤、防黴(ぼうばい)剤、といった化学物質が用いられるが、これらは人体のみならず、動植物にとって有害なものがほとんどといっても過言ではない。なぜなら、我々人間をはじめ、あらゆる動植物がウイルスや細菌、真菌の働きによって成り立っているからだ。

例えば、我々の腸内や皮膚表面には様々な細菌が生息している。これを常在菌と呼ぶ。正常な腸内の常在菌は、概ね善玉菌20%、悪玉菌10%、日和見菌70%、という割合で平衡を保っている。

では、善玉菌とか悪玉菌とかの分類は何によるかというと、人体に有益な働きか否かで便宜的に分類しているのだが、実は悪玉菌にも重要な役割があり、肉や魚などのタンパク質を分解するのも彼らの仕事。また、悪玉菌がいなくなり、善玉菌ばかりになってしまうと善玉菌が働かなくなることも判明している。要はバランスである。

近年の疫病騒動や清潔志向に伴い、やたらとアルコールや塩素系薬剤で消毒を行う場面を目にするが、その行為が度を超すと常在菌のバランスを崩し、却って感染症のリスクを高めることが指摘されている。

他方、感染研による最近の報告によると、子どもたちの間でライノウイルスによる感染症(いわゆる風邪)が増えているそうだが、このライノウイルスはインフルエンザやコロナと異なり、アルコール消毒が効きにくい (因みにノロウイルスも同様のタイプ)。

これは過度のアルコール消毒によって、それを掻い潜る種類のウイルス増加を招いた結果ではないかと指摘する向きもある。

自然界のバランスとは絶妙なもので、かつて水俣湾が有機水銀によって汚染された際、水俣湾に生息するバクテリアたちの半数近くが水銀耐性を獲得した。そして彼らは有機水銀を分解し、金属水銀に戻す働きを示したのだ。有機水銀と金属水銀とでは生体内の吸収率が大幅に異なり、金属水銀になれば有害性は激減する。

もし、我々が顕微鏡程度の解析機器しか持ち合わせていなかったとしたら、水銀耐性を獲得したバクテリアたちを水俣病の原因と見誤っていたかもしれない。

野山に生息する野生動物たちの屎尿も微生物によって分解され、土に還り、植物の生育に繋がる。ウイルスも細菌も真菌も、そこに彼らの餌となる物質が存在するから、それを貪食し、分解しているに過ぎないのだ。この分解過程で、時に発熱したり頭痛や腹痛が起きたりという症状が顕われるため、病原体と見做されただけの話である。

特定のウイルスや細菌だけをターゲットとして駆逐しようとする試みが、却って自然界のバランスを崩し、新たな脅威を生み出す結果となることに、そろそろ気付くべき時ではないかと思う。                                (了)

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