日本医学の建設(二) 一、胃病 (光明世界三号 昭和十年五月二十一日)

一概に胃病と言ふても、その種類としては消化不良、胃痛、胃拡張、胃酸過多、胃下垂、胃潰瘍、胃癌等であり、其原因も種々(イロイロ)であるが、大部分の患者に就て、最初の症状と原因を述べて試(ミ) よう。    

 先づ初め、胃の外部即ち心窩部(シンカブ)に、水膿(余が命名)が溜積せられ、其溜積が時日を経るに従ひ、自然に硬化し、夫に胃が圧迫さるるのである。圧迫された胃が漸次縮小をなし、胃の抱擁力が阻害さるる結果、食物の量が減少するのは当然の事である。又、夫が為、胃の運動も少からず、妨げらるるを以て、少量の飲食にても満腹をしたり、少時間にて空腹になり、或は、消化不良を来すのである。此時の療法としては、其水膿溜結を解消排除すれば、胃は圧迫より脱れるから、胃の容積も還元し、全治するのであるが、現在にては、其水膿を除去する方法が、未(イマ)だ発見されないから、止むを得ず、消極的に、胃の方へ向って、消化薬の力を借り、消化を助くる方法を執るのである。故に此初期の際は、胃其物は何等異状がなく、敵は、胃を圧迫する水膿溜結その物であるのである。

次に、胃痛の原因としては、右水膿溜結は多くの場合、心窩部(シンカブ)の上部辺に又は縦の棒状に硬結する性質を有するのであって、患者が満腹する時、胃の膨張に依って、右硬化物を、自然圧迫する。夫が痛みを感ずるのである。又、右硬結は、不純物であるから其部に軽微の発熱をなし、是が、胃に感じて胸焼けとなるのである。此場合、胃薬を服用すれば一時、快癒するから、患者は、不知不識此苦痛を脱れたいが為、胃薬連続の癖(ヘキ)となり、終に胃薬中毒患者となるのである。

次に此硬化物が、時日の経過と患者の体質に依って悪性に変じ、化膿状となり、漸次胃の内壁に迄、侵入するに至って初めて胃癌となるのである。而して、診断の場合、此水膿溜積物は胃を中心に、附近を指頭にて軽く押しつつ探せば容易に発見し得らるるのである。

軽度のものは一種の護謨(ゴム)性(セイ)弾力あり、濃度のものは固くしてプリプリを感ずる。又肉眼にて見る時、患部は特に隆起膨脹なしをり、中には、全面板の如く硬化せるものもあり、そして心窩部を中心に左右孰れにも見るが、多くは左の横隔膜辺に濃度の溜積を見るのが普通である。斯の如き症状の場合、無差別的に消化薬を能く用ひるのであるが、夫は一時的の効果のみで反って病気を重からしむる結果になるのである。何となれば水膿圧迫に由って疲労せる胃は消化薬服用に依り、食物の消化が容易となるから胃自身が活動する必要がないので胃の活力は、漸次衰退してゆくのである。

恰度、楽をしてる人の四肢が弱く、労働する人が頑健である様な道理である。のみならず此場合、消化のよき食物を摂取する事は胃の衰退に拍車を掛けるやうなもので益々胃は弱化衰退してゆくのである。近来、医家に於て消化薬を極力制限する傾向を見るのは寔(マコト) に喜ばしい事である。前述の如く、消化薬連続服用と、消化良き食物摂取の結果、胃は睡眠状態に陥り、終に弛緩する事となる、之を胃下垂といふのである。

次に、今一層恐るべきは、消化薬の連続作用に由る胃壁の破壊である。元来、消化薬は其食物を消化良く、柔軟化するばかりでなく不知不識の裡に胃壁も共に柔軟化されてゆくものである。其軟化された胃壁に偶々固形食物が接触すれば、其個所が破壊される。夫が、胃の激痛となり、又出血もするのである。之が胃潰瘍である。又斯ふいふ事もある。それは、最も緩慢に胃壁が柔軟化され、極小破壊又は胃壁を血液が滲出(シンシュツ) する事がある。そういふのは激痛と出血がないから胃潰瘍とは気が付かずに、時日を経てゆく、そういふ血液の溜積が古血となって便通に交り、又は嘔吐の中に見る事に由って初めて胃潰瘍を知る事が能くあるのである。

故に真の療法としては、積極的に胃の強力化を図らなければならない。其理から推すとどうしても消化薬は不合理であるから出来得る丈避けて食物に於ても可及的普通食を摂らせるのである。そうすると、胃の抵抗を強め活動を促すから、水膿溜積を反対に、胃自身の力に由って積極的に外部へ向って圧迫し、排除する事になる。往年、食物医者の石塚某氏が流動食同様の物を摂取し居る患者に対し、直に沢庵と塩鮭の茶漬を奨め意外なる、効顕を奏した事を聞いた事が屡々あったのは此理に合ってゐるからである。随って、胃の初期患者には、積極的胃の強健法を、奨めなければならないのである。夫には第一出来得る限りの運動と場合に依り一回又は一日位の絶食も良し、食餌に日本食が最も適当であって、就中(ナカンズク) 、菜の類の香の物で茶漬等が非常に効顕ある事は、余が実験上保證し度いのである。尤も香の物は、酸味の多い古漬が最もよく、先づ一日の中一食位の、香の物、鮭、干物等の茶漬を食ふのが、初期患者に最も良いのである。

水膿溜積を溶解するに、医療電気を応用するのは相当効果がある様である。

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