軽視出来ない事実 (自観叢書十 昭和二十五年四月二十日)

 今回の全米水上選手権大会に於る成績は実に意外である。マサカ日本がこれ程強く、アメリカとの差がこんなに著るしいとは誰が思ったであらう。尤も巨豪古橋が昨年驚くべきレコードを作ったので、相当の期待はしていたが之ほどとは思はなかった。それまで世界の水上選手権は米国が握っていたからである。

  此事実に対し、米国の専門家はその原因が日本選手の猛練習にあるといい、八時間も継続練習を続けるとは驚いたといっている、之について、吾等の見解をかいてみよう。

 真の原因は体力の相違である、というと一寸不思議に聞えるが、之までは米人の方が日本人より体力は優っていると誰しも思っていたのであるが、何ぞ知らん、今回の競泳によってみれば日本人の体力の方が優ってゐるという事実を認めない訳にはゆかない。とすれば此原因を充分突止める必要があらう。実をいうと、第一は食物の関係である。それは米人の肉食多用に対し日本人の方は菜食が多い事実である。というの は肉食者は体力が外部に偏り、内部は弱化するのである。その事実として短距離の場合、米国は強いが、長距離になると日本人の方が強いのは、耐久力、即ち、息切れが少い点である。此事に就て左の記事はよくそれが表はれている。八月二十日毎日新聞記載(ロスアンゼルス電話)『前略、外国選手は初めはよく飛ばすが百を過ぎると目に見えて落ちて来る、泳法はいいのだが、ブルム、ジョーンズなど四百で最初の五十、百は物凄いが二百からは全くダメだった、これは練習不足以外の何物でもないと思う、八百リレーは丸山、村山が特に好調、浜口も自信たっぷりで飛出した、古橋は四百の決勝のあとにも拘はらず、前半一分一秒四、後半一分六秒三という驚異的な成績で、これが世界記録樹立の主因となったと思ふ』

 右の練習の為といふ事も無論間違ひはないが、長時間の練習に堪えるのも、体力強靭のためである、それに就て斯ういう事がある。

之は外国登山家の話だが、登山一週間前から絶対菜食を摂るそうである。又私が以前の著書に、日本の農民が菜食だからアレ丈の労働に堪える、もし肉食だとしたら、 直に参ってしまふと記した事がある。又、菜食者の長命である事は事実であって、彼の有名な英国の文豪ショウ翁は、今年九十三歳で、矍鑠(カクシャク)としてゐるのは彼が菜食の為である。又、禅僧の長命もそうである。十数年前百十二歳で死んだ禅僧、鳥栖越山師の如きは、死の直前まで矍鑠(カクシャク)としてゐたといふ事は死の直前十数人の人に一々遺言したとの事である。

之等幾多の事実によっても菜食が如何に人間の健康にいいか判るであらう、今日栄養は肉食の方が勝ってゐるように想ってゐるのは如何に誤りであるかを知るであろ う。

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