治療士の心構え『岡田先生療病術講義録」上巻(四)昭和11(1936)年7月

 治療についての心得を述べておきます。

 第一に肝腎な事は治療しようとする時の想念であります。まず世の中を救い、人類を幸福にしたいという大善心が根本にならなくてはならぬのであります。

 これによって巧く金儲けしようとか、この人を治せば大いに自分に有利であるなどと思うのは面白くないのであります。又、治療の時だけは、施術する位置が肝腎であって、原則として、術者は上座に坐らなくてはいけないので、常識から見て、その部屋の上座は自ら判るもので、大体入口の方が下座と思えば間違いないのであります。

 しかし、その外の場合はなるだけ下座に居るべきで、それが謙譲の美徳であります。

 大変良く治る時と治らぬ時、又治る人と治らぬ人とがありますのは、右の様な種々の関係もあるのであります。次に、問診でありますが、これは出来るだけ訊(き)く方が良いのであります。又、最初は、患者が疑っておりますが、これは構わないので、最初から信ずるのは無理であります。しかし一度治病効果を見せられても未だ疑っている人は、それはその人の頭がわるいので、効果のない内に疑うのは当然ですが、効果をみてもなお疑うのは、先方が間違っておるのであります。

 困るのは薬であります。“薬は不可だ”というと、医師法に触れるからいけない。ところが事実は、薬は服むだけ治りがおくれるのでありますが、この点は特に注意して法規に触れないようされたいのであります。

 第二に食物ですが、これも実に困るのであります。肉食特に牛肉と牛乳がいけない。なぜかというと、非常に血を濁すものだからであります。しかし、これらも強いてという訳にもゆかないので、ある程度――患者の任意にするより致し方ないのであります。近来、医師により、肉食を不可とし、菜食を奨める人が相当多くなったのは、喜ぶべき傾向と思うのであります。

 それについて、面白い話があります。先日ラジオでこういう話を聞きました。それは独逸(ドイツ)のヒットラーは非常に摂生に注意を払っている。その為に、酒も煙草も用いず、又肉食も避けている、というのです。これでみると、医学の本場である独逸でも、肉食の害を知っている事で、実に意外に思ったのであります。

 次に、病人によく梅干を食べさせるが、これは胃には非常に悪い。食欲を最も減退させるものであります。

 元来梅干は、昔戦争の際兵糧に使ったもので、それは、量(かさ)張らないで腹が減らない為であります。梅干と田螺(たにし)の煮たのを多く兵糧に使ったそうであります。

 腹の減らない為に使ったものを、粥を食う病人に与えるのは間違っております。

 よく梅干は殺菌作用があるといいますが、空気中ではそうではありましょうが、腹の中へ入ると成分が変化する以上――それは疑問であります。

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