夢と邪霊 (自観叢書三 昭和二十四年八月二十五日)

昭和七年四月の或日午後三時頃電話が掛って来た。すぐ来て貰ひたいといふので、私は早速その家へ赴いた。その家は相当の資産家で、そこの妻女の難病を治してから間もない頃であった。その妻女に面会するや彼女は口を開き『実は先刻ウツラウツラ居眠りをしてゐると不思議な夢をみた。それは真黒な人間の如きものが私に向って強い言葉でいふには「お前は岡田を近づけてはいけない、アレを近づけると今にお前の家の財産を捲上げられて了ふから今の中放れてしまへ。」と言ふので、私は「否、それは出来ません。私が十数年来悩んだ病気を治して下さったのだから、絶対放れる訳にはゆかない。」といふと黒い影は怒って「ヨシそれでは斯うしてやる」と言って喉を締めつけたので、私は吃驚して眼がさめた処が驚いた事には、喉を締める際、指の爪で強く押した為、目が醒めた今でも爪の痕が痛い。』といふので見ると驚くべし、アリアリと爪の痕が着いてをり、赤く腫れてゐるのである。考えるまでもなく夢中で押されたそれが現実に肉体に傷ついたといふ事は何と不思議ではないか。之は霊が体と同じ働きをした事になるので、私は身震ひしたのである。之と同じような実例が今一つある。
或日の早朝電話がかかって、すぐ来て呉れといふので早速その家へ駈つけた。見ると其家の二十歳位の令嬢が臥床していた。此令嬢は非常に弱かったのを私が健康にしてやったのである。訊いてみると之も不思議な話である。令嬢曰く、「朝まだき夢をみた。それは以前一寸知り合ってゐて、数ケ月前死んだ某青年である。夢の中で此青年がイキナリ自分を目がけてピストルを放ったので眼がさめた。すると不思議や身体中が痙れて動けない。而も心臓の中に弾丸が入ってゐる様に思はれ、多量の出血があるような感じであるから胸を見て呉れ。」といふのである。私は見たが何ともなってゐない。早速霊的治療を施し、心臓から弾丸の霊を撮み出してやったので大分快くなったが全治はしない。私は時間が経てば治るといって帰った。その夕五時、私宅で祭典があったので、『治ったら来なさい。』と言った処、幸ひにも五時頃平常の通りで参拝に来たので、私も安心したといふ事があった。
右両例とも邪神の妨害であったのは勿論である。前者は私から離反させんが為、後者は祭典に参拝不能にさせようとした為である。

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