御教え *日本美術(御教え集8号  昭和27年3月5日⑤)

【御教え】

 私は一昨日、今評判の三越の興福寺の展覧会に行って見ましたが、評判の阿修羅ですね。その木像がありましたがね。天平時代に出来たんですがね。阿修羅と言うから、私は凄い顔をした、阿修羅王と思って行った処が、案外にも――丸で十七、八の処女の様に実に可愛らしい良い顔なんですよ。それで驚いたんですが、考えた処、阿修羅が改心して大人しくなった。それを現わしたものですね。で、それは非常に良いです。『毎日新聞』に、値打ちが一億なんて書いてありましたが、ああ言う物は反証する事が出来ないでしょう。一億と言っても二億と言っても、相場と言うものがないですから、大袈裟に書くんです。天平時代と言うのは千二、三百年前ですからね。その時代にあの位のたくみな彫刻が出来ると言うのは、実に驚くものです。

 仏は、私は研究してますが、日本は世界一です。断然世界一です。日本の仏は支那から影響を受けたものですね。支那で仏の一番良い物が出来たのは、六朝時代ですね。と言うんです。北魏と言う時代に一番良い物が出来た。それが日本に入って来たのが欽明天皇の時ですね。それから間もなく、推古朝ですね。その時仏教が非常に盛んになった。そこで仏教芸術と言うのが生まれたんですね。法隆寺なんて言うのは、その時です。推古、白鳳、天平となるんですからね。仏像として出来たのでは推古が先なんですね。それから間もなく、法隆寺の色々なものですね。それから東大寺――奈良の大仏さんですね。それで俄然として仏教芸術が生まれたんですがね。その時に生まれた。最初の推古ですね。その時のは実に上手うまく出来てますね。北魏時代の金銅仏は、銅に金のメッキをしてあり、珍重されてますが、日本の推古仏と較べたら問題にならないですね。何処か、支那の仏は間が抜けているんですよ。垢抜あかぬけがしてないと言いますかね。不器用なんです。尤も、支那の仏と言うのは、印度から影響受けているんです。又印度の仏と言うのは、余程間抜けなものです。それが日本に来ると、俄然として良いですね。之を見ても、日本人の美術的才能と言うのは大したものです。世界一ですね。それと、展覧会でもう一つの良かったのは、乾漆かんしつで等身大の烏天狗からすてんぐと、あと三体許り乾漆ですが、之は非常に良かった。唯、不思議なのは、お寺展覧会みたいな仏と言うのは一つもないんです。私は、お寺だから、観音さんとかお釈迦さんがあると思ったら一つもないんです。どう言う訳でないかと言ったら、みんな売っちゃったんです。お寺の良い物なんかは、相当民間に散らばっているんですね。

 そんな様な具合で、仏教の美術の彫刻と言うのは、実に素晴しいものですね。私は近頃研究して驚いた。ですから天平時代の彫刻を見ると、ロダンなんて足下にもつかないです。この間アメリカから帰って来た人で、去年サンフランシスコの展覧会の時に係長になって行った人が、ついでにあっちの美術館を巡回して来たんですね。私は、あっちの色々な図録を見せて貰って、話を聞きましたがアメリカの美術館を歩いても、日本の美に関する優秀性――之は世界一だと言ってますね。何故世界一かと言うと、美術の少し深い処にいくと、アメリカ人には解らないそうですね。勿論フランスやイギリスでもね。日本程解らないそうです。日本人のさびの芸術ですね。之は本当には解ってない。アメリカ人でも、終戦前はケバケバしい物しか解ってなかった。最近に至って、日本に関心を持って来た。と言うのは、支那芸術の随分古いのが行ってます。日本以上に行ってますね。陶器、銅器がね。処が去年のサンフランシスコで刺戟された。日本にはこんな良いのが出来るかと、俄然変わって来たそうです。之から、今年なんかもニューヨークで日本美術をやって呉れと、申し込みがある様ですが、そんな様な具合で、日本美術に対する関心と言うのは大変なものですね。今美術研究家で牛野と言う人が居りますが、この人は今ヨーロツパに行ってますが、あっちで日本美術を講義に、委嘱いしょくされて行っている。いずれは私の美術館の顧問にする積りですがね。大体今の処仏像、陶器、支那陶器、そう言う物の権威ですがね。それから、今の牛野と言う人は、全般的に非常に明るいですよ。この人は今近畿鉄道で、いずれ美術館を造ると言うので、その方の芸術品の蒐集を委嘱されてやってますが、けれども中々金がないんで、計画はしているけれども、中々出来ないんですがね。で、私の方がずっと早く出来る様になっちゃったんです。そんな様な具合で箱根の美術館も、日本美術が主なものですから、外国人が非常に驚いて喜ぶだろうと思ってます。尚、日本の陶器もあるし、日本の蒔絵もあるし、絵画も――支那の絵画も日本の絵画もあるし、随分大変な、世界的な評判になるんじゃないかと思ってます。時間が来ましたから、話はその位にして置きます。

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