御教え*日本美術館(御垂示録7号 昭和27年2月②)

 今度の箱根の美術館丈でも、世界一でしょう。建物の立派なものは、敵わないですが、中身は世界一です。何故かと言って、日本美術と言うのは、外国に無いんですからね。支那美術はありますがね。支那の陶器、銅器はありますが、日本美術は殆んど無いですよ。やっぱり、日本美術が世界で一番ですね。だから、日本で外国に負けているのは、支那の陶器と銅器位ですね。絵は同格ですからね。あとは、日本が上ですからね。第一、日本美術の美術館と言うのは、日本に無いんですからね。

 この間出来たブリヂストン美術館は油絵です。大阪の白鶴でも、支那美術です。博物館は仏教美術ですよ。仏教美術は大したものですね。本当の日本美術館は無いですよ。大原美術館でも――行って見ないけれども、大体油絵が中心ですね。それから、根津とか長尾とか、あんなものは知れたものですね。京都の博物館も、やっぱりお寺美術館ですね。日本美術館なんて無いんですよ。世界に無いんですね。だから、今度箱根に出来た、あれが世界一です。外人が来てもびっくりしますよ。処が、日本美術は見たくても、目に触れなかったんです。みんな大名とかの土蔵に入っている。それも種類が少ないですからね。一軒の家でも、色々はないですからね。それを今度は、日本美術の最高の色々な、成る程と言うのは出ますからね。だから、日本美術と言うのは、みんな見られないです。外人は無論ですが、日本人でもね。日本に、こんな良い物が出来るかなと思う様ですよ。そうして、日本美術の藤原時代は、仏教芸術が多いんです。鎌倉時代は蒔絵位なものですね。あとは、陶器類は桃山時代で、尾張のものですからね。尾張と言うが、朝鮮の模倣ですからね。日本独特のものじやない。日本独特のものは、有田、薩摩――それが最初でしょう。それが、そう古くはないからね。桃山内外だからね。陶器でも、桃山以降ですね――良い物はね。それから、蒔絵が鎌倉あたりからですね。足利時代に可成り良い物が出来ている。明治迄は中々良い物が出来ている。それから絵で、私が狙ったのは琳派ですね。光琳、宗達、乾山――下って抱一位ですね。之は、日本独特の美術だからね。狩野派はあれは支那の真似だからね。日本独特のものは、先ず琳派のものと、大和絵、浮世絵。大和絵は、代表的の物は少し出すが、大和絵と言うのは定まったものですね。あんまり変化がない。浮世絵は良いですね。処が、浮世絵は大抵版画ですね。肉筆物が良いんですよ。然し、世に出れる機会がなかったからね。外人は知らないんですよ。だから私は肉筆を集めている。あんまり知らないから、買手がないので安いんですよ。今では大変ですよ。二十種位ありますがね。之を見たら、外人なんかよだれを垂らすでしょう。それから、あとは東山水墨と言って、足利時代の墨絵ですが、之はやっぱり、結局支那の宋時代をお手本にしてますね。そのうちの優秀な画家は、雪舟、周文、啓書記けいしょき――之は宋画に紙一重の日本画であって、近代は探幽、応挙、文晁ぶんちょう等は昔と違い、余り珍重されなくなったので、北斎とか――本当に厳密に見ると、やっぱり価値がないんです。それで、明治に入ってから栖鳳せいほう、春草、大観、玉堂ぎょくどうあたりですが、そう言うのは皆んな網羅してありますがね。それから陶器でも、大抵支那の真似してます。支那か朝鮮ですね。全然真似してないのが、仁清にんせいですね。之は、日本独特なものです。仁清の物丈は、支那と比較して劣らないんです。で、私は最初、仁清に目をつけて集めたんで、終戦後バタバタと手に入った。今はもう全然無い。今は非常に値が上ってますよ。それから、乾山、鍋島ね。その三つが一寸支那、朝鮮とは違った、本当に日本的のものです。今度の美術館で解るだろうがね。素晴らしいものですよ。絵ではたまに見るでしょうが、実物を見るのは滅多にないでしょう。道具屋だって――相当古い道具屋だって、あんまり見ないですからね。そう言った説明は、みんな私が道具屋にしてやるんです。道具屋は、仁清の本物と贋物が解らない。仁清を見別ける人はないと言うんです。だから、今外国だって日本陶器と言うのは知らないですからね。陶器と言うと支那だと思っている。ロサンゼルスで、支那の宋時代の陶器の展覧会があるんで二、三日前に船で送りましたが――十五点ですがね。処が、あっちの者も大したものです。日本の何処に何がある、何処に何があると書いてある。それをお名指なざしで書いてある。支那の陶器と言えば、支那の宋時代が一番良く出来たんですがね。芝に晩翠軒と言う支那料理屋がある。あの親父が、支那陶器で大変な者です。それを――井上常一と言う名前ですが――「井上常一と言う所に、こう言うのがある。黒い、牡丹で――」と、アメリカの御注文なんです。実に良く知っている。それで送りましたがね。そんな具合で、支那の陶器丈は――中々外国でも世界的に知られない日本の陶器も少しありますが、あとは日本の仏画、仏像――之は世界的に有名ですからね。この間、サンフランシスコの展覧会でも、日本から出したのは殆んど仏像ですからね。之は全く大したものですよ。日本の仏像はね――世界に無いですね。日本の木彫の良い物は、ロダンなんかに負けないからね。ロダン以上の物が沢山あるでしょう。日本人は知らないが、外国人は知っているから、日本の仏像を目掛けている。日本の仏像は、何故あるかと言うと、日本の仏像の良い物は、みんな国宝になっているから、寺にあるんです。私は調べて見たが、大変なものですよ。日本の寺にある彫刻なんか、全部国宝ですからね。だから外国に行かなかった。

《お伺い》お寺にありますと、今迄は拝みます対象になっておりますが、今度は美術品として。

《御垂示》そうです。だから今考えているんですが、今に段々ね。

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